2008年11月23日(日) 16時46分
振り込め詐欺犯の独白・「やはり金」誘われ、詐欺グループに(産経新聞)
10月上旬、産経新聞の警視庁担当記者宛てに1通の手紙が届いた。
「振り込め詐欺の加害者として貴社に私を取材していただきたい」「振り込め詐欺をなくすために協力させていただきたい」
警視庁巣鴨署に勾留中の男(52)からだった。留置番号「1番」。振り込め詐欺の一種「融資保証金詐欺」の主犯格として詐欺罪で起訴された。産経新聞が9月28日から社会面で3回連載した『撲滅 振り込め詐欺』を読み、手紙を出したという。
真意を聞くため、記者は巣鴨署に行った。3階にある接見室。しばらく待つと、厚さ1センチほどの強化プラスチック板の向こうに、ほほ笑みをたたえた男が姿を見せた。短く刈られた白髪交じりの髪、地味なスエットの上下姿。「はじめまして」。声には意外なほどに張りがあった。
「私は今、反省し再社会化するために、無謀にも手紙を書きました」
起訴状などによると、男は架空の金融業者を装い、多重債務者に融資申し込みを募るダイレクトメールを送付。昨年9月20日、岐阜市内の女性(30)に「保証金を支払えば融資が可能」などとうそを言い、現金8万円を振り込ませた。
多重債務者から融資の保証金名目で金を巻き上げる典型的な融資保証金詐欺だ。同様の手口で計324万円をだまし取ったとして、今年3月から10月22日までに計7回、東京地裁に起訴されている。
◇
「やはりお金ということでしょうか」。男が振り込め詐欺犯になった理由は金だった。
男は昭和60年代のバブル期以降、不動産業を営んでいたが、会社をたたみ、平成18年に芸能事務所を立ち上げようとしていた。設立資金がほしかった時期に声をかけてきたのが「知り合いの男」だった。
「共犯に関することは公判中なので詳しく述べることは差し控えたい」。この人物について多くを語らないが、地下社会に精通した男だったという。
「私はそれまで逮捕歴もなければ、世間に後ろめたいことをしたこともなかった。話を持ちかけられたとき、冷静な判断ができなかったのだろう」
「知り合いの男」の誘いは振り込め詐欺のリーダーになることだった。話に乗った。「すでに運営が始まっているグループを引き受けた。いわば“振り込め会社”を引き継いだようなもの。グループの運営費はダイレクトメール費などで月600万円かかった」
男の役割は収益金管理。ダイレクトメールを発送する役、電話を受けるだまし役ら共犯者を“新規募集”する際には「手配師」と呼ばれる人物に依頼した。「手配師は警察が言う道具屋のひとつで、振り込め詐欺の“人材”を提供する業者。そうした業者の紹介は知り合いの男から受けた」
男はその後、複数のグループを“買収”して傘下に収め、手広く振り込め詐欺を展開するようになった。 「一般論で言うと、融資保証金詐欺の一つの“店舗”の純利益は月2000万〜3000万円。私はそれほど稼いでなかったが、若者たちにはきちんと分配していた。いいリーダーだったと思うよ」
◇
「ダイレクトメールに応じてきた客に対し、『保証人がいない場合、当社が保証人を付けますので大丈夫』などとうそを言って、手数料名目で最初に10万〜15万円を目安に請求する。『このお金はお客さまへのご融資の際に全額お返しします』とも付け加える」
接見、手紙でのやりとりを重ねるにつれ、男は具体的な手口を明かしてきた。
「融資希望額100万円で申し込んできた客が2日間で6〜7回だまされ、手数料や保証料やらで1000万円以上を振り込まされることもある」。300万円の融資を希望しながら、1600万円を巻き上げられた被害者も知っているという。
警察庁によると、今年の融資保証金詐欺の被害額は9月末時点で29億8374万円。前年同期比で約1億円増。振り込め詐欺の中でも被害者を徹底的に食い物にすることから、悪質といわれる。それでなくても多重債務者や零細企業経営者ら金に困っている人を標的にするため、大阪や新潟では被害者が自殺に追い込まれたケースもあった。
「そんなに現金があるのになぜ300万円の融資を申し込んできたかはナゾだが、われわれの中ではお笑いネタになっていた」
男は18年12月、芸能プロを設立する夢をかなえた。被害者を踏み台にした“汚れた夢”だった。
□□□
今年1〜9月の被害額が約235億円と過去最悪ペースが続く振り込め詐欺。警察庁は10月を撲滅月間として、徹底した対策に乗り出した。その直後に接触してきた詐欺犯の「独白」を2回にわたって伝える。
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