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2008年11月04日(火) 18時58分

なぜ小室哲哉は巨万の富を失い、逮捕されるに至ったのか?ツカサネット新聞

音楽プロデューサー、小室哲哉が5億円もの巨額詐取容疑で逮捕される見込みだという。11月4日付の朝刊各紙で報道されているところによれば、大阪地検特捜部はすでに逮捕状を取っており、小室が代表を務める株式会社トライバルキックスの関係者とともに、容疑が固まり次第逮捕する方針なのだそうだ。(11月4日現在)

小室哲哉の業績は、“一世を風靡した”という言葉ですら生易しいほど凄まじい。これまでにプロデュースしたシングル・アルバムの総売り上げは1億7000万枚に達し、作詞家別シングル総売り上げは阿久悠に次ぎ第2位、作曲家別シングル総売り上げ枚数は筒美京平に次いでこれも第2位。まだネット配信などがなかった時代のことである。それだけの数の人々が、彼が手がけたCDをキチンとお金を出して買っていたのだ。

あの坂本龍一にして「小室君は日本人の耳・メロディライン・転調・アレンジ・リズム感・ビート感を教育しちゃった」と言わしめるほどの影響力を誇った小室サウンド。彼が作り上げた楽曲の数々は、彼に名声と巨万の富をもたらしたが、同時に大きな落とし穴も用意していた。今回、逮捕の直接的原因となる詐取事件の中心にあるのは、小室哲哉が作詞・作曲した806曲の著作権である。

小室はこの著作権を総額10億円で兵庫県の会社社長に売却しようとして代金の一部である5億円を受け取ったが、実際にはこれらの著作権はエイベックス・エンタテインメントら複数の音楽出版社が保持しており、会社社長は小室を提訴、全面勝訴したものの和解金などが小室側から支払われず、会社社長が大阪地検特捜部に告訴したため今回の詐欺事件としての立件へとつながっている。詐取した5億円は小室の借金の返済に充てられていたという。

小室は栄華を誇った90年代を振り返り、「自分のお金がどのくらいの人に、どのくらいの額が自動的に流れていたのか全くわからなかった」「完全に裸の王様でしたね」とテレビ番組『オーラの泉』で告白している。実際、小室には事業の失敗により数十億の借金があり、そのため離婚した前妻への慰謝料7億8000万円の支払いも未払いだった。CDを1億7000枚売った男の、絵に描いたような転落劇である。

では、小室の事業失敗とはいったい何か? 彼の略歴をたどっていくと、ひとつの出来事に行きあたる。それは、1996年に香港で設立した合弁会社「TK NEWS」とそこから発展する形で98年に誕生した「Rojam Entertainment」にまつわる事業とその失敗である。

「TK NEWS」は、その名のとおり、TK=小室哲哉とNEWS=ニューズ・コーポレーションの提携によって生まれた組織である。Yahoo!買収まで噂されていたメディア王、ニューズ・コーポレーション総帥ルパート・マードックと小室がそれぞれ100万ドルずつ出資(実際のビジネスパートナーはルパートの息子、ラクラン・マードック)して立ち上げられた「TK NEWS」は、アジアの音楽マーケットに向けて小室サウンドを売り出していくとともにアジア地域でアーティストを発掘していくための会社であり、小室の世界戦略のベースになるはずだった。その事業方針は壮大であり、「アジアの主要なレコード会社とライセンス契約を結び、プロデュースするレコード製作、販売、マーケティングをサポート」「情報発信は、ニューズ・コーポレーションが持つ世界規模のエンターテイメントネットワークを活用、世界をターゲットに新しい音楽テレビ番組の企画を打ち出し、提供していく」などとされている。

しかし、ニューズ・コーポレーションはわずか2年後の98年に「TK NEWS」から撤退。小室はほぼ独力で後継組織である「Rojam Entertainment」を受け継ぐことになる。ちなみにその前年である97年には、プロデュースした安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」が200万枚を超えるヒットを記録、日本レコード大賞を受賞している。98年には自身も所属するglobeの「wanna Be A Dreammaker」がやはり日本レコード大賞を受賞。また、前妻である吉田麻美と新ユニットTRUE KiSS DESTiNATiONを結成するなど、小室哲哉の時代はまだまだ続くかのように思われた。実際には安室が結婚、産休に入り、globeのセールスは下降線、TRUE〜からは思うようなヒットが生まれないなど、小室のパワーに陰りが見えてきた頃ではあるが、98年の時点では小室自身、まだ世界進出への夢から醒めていなかったようだ。

しかし、新会社にはアドバイザーとしてジャン・ミシェル・ジャールを、プロデューサーとして中田英寿を迎えているが、シンセ奏者と元サッカー選手にメディア王と比較すべき経営手腕があったとは到底思えない。「Rojam Entertainment」は数名のアジア人アーティストを発掘しデビューさせているが、結局さしたる業績もあげぬまま04年に当時小室が所属していた吉本興業などの子会社となり、同年に小室も所有していた全株を売却している。6年にわたって私財を投入し続けた結果、小室はこの事業の失敗で70億にものぼる負債を抱えてしまったのだ。

小室と親交の深いテリー伊藤は11/4放送の『スッキリ!』にて、小室がこの事業の失敗について「(事業は)自分には向いていなかった」と述懐していたことを明かしている。テリー伊藤から見ても小室は「音楽バカ」であり、今回の詐欺事件についても本人がどれだけ事件の重大性を理解して関与していたのか疑問を呈している。つまり、同時に逮捕されると目される“取り巻き”たちに問題があったのではないか、と語っているのだ。

いみじくも小室自身、先にも挙げた『オーラの泉』で自分が「裸の王様」だったと認めている。孤独を恐れるが、他人とのコミュニケーションが苦手。それが小室による自己分析である。単なるクリスマスパーティーの場でTRFのメンバーにそれぞれ1000万円ずつプレゼントしたという逸話は、小室の巨万の富ぶりを示すとともに彼の対人関係の不器用さをも示している。小室にとって今の妻であるKCOが「信じることのできた初めての人」であり、KCOの生活を通じて「はじめて“情緒”というものを得ることができた」のだという。誰も信じることのできない、商才のない「音楽バカ」が、他人とまともにコミュニケーションできないまま巨大事業を成功させることなど不可能のはずだ。そしてこのことは、詐欺事件に関与してしまうような人物を自分のブレーンとして迎える小室自身の“人を見る目のなさ”にもつながっている。もちろん、小室自身が主犯として積極的に詐欺事件にかかわっていたという可能性も大きいが、優れた人材を自分の周囲に配しておけばこのような愚かな事件に手を染めずに済んだ可能性もまた少なくはなかったはずだ。

逮捕されれば小室は刑罰をもって罪を償う日々を送ることになるのだが、そこで見つめなおすべきは自らの「裸の王様」ぶりだろう。それができなければ、たとえ罪を償ったとしても、小室哲哉の復活劇はないはずである。


最後にどうでもいい話をひとつ。小室が出演していた『オーラの泉』で江原啓之と美輪明宏は小室に対して「海外移住はダメ」と宣言していた。小室には日本で“お役目”があり、それが大変なことだと告げていたのだ。小室は「怖いなぁ」と笑っていたが、その“お役目”が懲役のことだったとしたらちょっと出来すぎた話だ。

(記者:ポポちゃん)

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