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2008年09月14日(日) 22時55分

<福田首相>退陣表明2週間 公務えり好み?で政治も漂流毎日新聞

 福田康夫首相の退陣表明から、15日で2週間が過ぎた。今なお日本の最高権力者である首相だが、マスコミ取材を拒み、自衛隊の重要行事への出席を見送った。一方で、消費者庁設置にはこだわりを見せるなど、公務を好き嫌いで選んでいるかのようだ。漂流する「権力の館」の今を報告する。

 ◇ぶら下がりインタビュー拒否が波紋

 退陣表明から一夜明けた2日。首相は閣僚懇談会で、「最後までしっかりと国政に当たれ」と気合を入れた。

 ところが自身はマスコミとのぶら下がりインタビューを拒否し、自衛隊高級幹部会同を欠席。これには、衆院選を控える自民党側が、世論の反発を買うと懸念し始めた。

 保岡興治法相は5日、「ぶら下がり」を復活するように、町村信孝官房長官に説得を求めた。前日の山崎派総会で、派内から突き上げられたからだ。

 「辞任会見をしたら、辞めたような感じが出ている。最後まで全力投球でやってもらいたい」。平沢勝栄衆院議員はTBS番組で、首相に苦言を呈した。

 町村氏は首相に、「ぶら下がり」に応じるように説得した。しかし首相の反応は鈍く、町村氏は会見で「これでいいんだと思う」と答えるしかなかった。

 首相が「ぶら下がり」に応じない理由に挙げたのは、自らの発言が総裁選に影響すると考えるから。「大きな事件や事故、閣僚の判断を超える事案があれば応じる」との見解を示した。

 だが、実際には北朝鮮が拉致問題の再調査の延期を連絡してきた際にも、「マスコミ側と連絡がつかない」との理由で拒否。首相がこの日、官邸から公邸に引き揚げたのは、午後5時33分だった。

 辞意表明から1週間たった8日、首相は突然、テレビカメラが入る夜のぶら下がりに応じるが、この時の記者団との質疑で、ぶら下がりに対する首相の「本音」がのぞいた。

 核分野の輸出管理に取り組む「原子力供給国グループ」(NSG)総会で、インドへの原子力技術や核燃料などの輸出が解禁されたことについて聞かれ、

 「官房長官の記者会見で答えてるんではないかな? でしょ? 官房長官というのはね、この官邸のスポークスマンなんですよ。ねぇ? ですからその話を聞いていただければいいんです」

 首相は3日の自衛隊高級幹部会同は代理も立てずに欠席した。幹部会同は、自衛隊の最高指揮官の首相本人が出席し、欠席する場合は官房長官などの代理を立てるのが通例だ。

 欠席について、町村氏は会見で「若干の手違い」と説明したが、林芳正防衛相は5日の記者会見で「事務方を通じて『今回は防衛相にやってもらいたい』と指示があった」と述べた。

 「首相でいる限り、ちゃんと行ってもらいたかった」(官邸筋)と官邸内からも不満の声が上がった。

 ◇退陣表明で宙に浮く課題も多く…

 退陣表明で、不透明になった課題は多い。

 新テロ対策特別措置法の延長は、19日に閣議決定される予定だ。

しかし、臨時国会が召集され早々の解散が有力視される中で、衆院選挙が終わるまでは審議が行われない。

 「どうせ廃案になるのが分かっている法律に、力が入るわけがない」と、政府関係者はため息をつく。

 外交にも大きな影響が出た。21日に日本開催が予定されていた日中韓首脳会談。竹島問題の影響を受け韓国側からなかなか出席の返事が得られず、日本側が説得を続けていた。しかし、首相の退陣表明で、逆に日本側から開催延期を連絡するはめに。

 日韓外交筋は語る。「韓国政府は9月2日か3日に、正式に参加を通告しそうだった。首相の辞任はその直前の1日夜。韓国にしてみたら『何のことだ』という感じでしょう」

 官邸が頭を悩ませているのは人事だ。10月1日に設置予定だった「観光庁」の長官人事をはじめ、政府の重要人事が、首相退陣のあおりで決まらない。

 独立行政法人「雇用・能力開発機構」の廃止問題では、廃止・解体を唱える茂木敏充行革担当相と「まず改革案を」の舛添要一厚生労働相の意見調整がついていない。

 首相は退陣表明前の8月13日、茂木氏を首相公邸に呼んで「早急に結論を出すように」と議論の加速を指示。茂木氏は17日、記者団に「基本的には廃止の方向だ」と語った。

 一方の舛添氏は9月5日の記者会見で、首相との会談で新たな改革案作りを確認したことを強調している。

 町村氏は「政府全体で答えを出す話だ」と述べるにとどまった。

 ◇消費者行政では「こだわり」を前面に

 一方、首相は消費者行政へのこだわりを前面に出す。8日午前、有識者による消費者行政推進会議が開かれ、政府は消費者庁関連法案の骨格を提示。首相はあいさつで「(法案は)私がしっかりと責任を持つ」と述べた。

 同日復活した「ぶら下がり」で、記者団が「消費者庁設置が難しくなるのでは」と質問したのに対して、首相はこう答えた。

 「これが難しくなるということは、私は、政治の後退だと思う。どのような政権であろうと、粛々と進んでいかなくてはいけない」

 北朝鮮の拉致再調査開始延期について聞かれた際には、「北朝鮮に何らかの事情があるんでしょう」などと、素っ気ない答えをしたのとは対照的だった。

 総裁選で消費者庁問題は大きな話題にならず、野田聖子消費者行政担当相のもとには消費者団体などから、議論の停滞を懸念する声が多く寄せられている。

 消費者庁設置のための関連法案を閣議決定するには、自民党の総務会決定が必要だ。しかし、党側は総裁選期間中は総務会を開かない動きを見せた。

 この動きを知った首相は町村氏を通じて党側を説得し、16日に総務会を開催、19日には閣議決定を行うというスケジュールを固めた。首相が意地を見せた場面だった。

 消費者庁の創設論議に火を付ける契機となったこんにゃくゼリーよる窒息死亡事故。

 首相は8日、官邸を訪ねた野田氏が持参したこんにゃくゼリーを眺め、カップのふた部分に書かれた、食べた時の危険性に対する注意文を見て、「こんなの小さくて読めないよ。漢字では、子供が読めないじゃないか」

 退陣表明後に発覚した汚染米転売問題では、農水省が「相手先企業の同意が得られていない」などと、流通経路の公表に慎重姿勢をとった。これに対して首相は「全く分かっていない。何か勘違いしている」(政府筋)と激怒した。

 首相は11日に太田誠一農相を官邸に呼び、流通経路などの全容解明を指示。翌12日には、町村氏が白須敏朗農水事務次官を官邸に呼び、対応の甘さを叱責した。

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080914-00000074-mai-pol