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2008年08月31日(日) 22時24分

西濃健保解散…他社に波及の懸念 最終的には国民にツケ産経新聞

 物流大手の西濃運輸(岐阜県大垣市)のグループ企業が加入する健康保険組合の解散をきっかけに、大手企業の健保組合解散が相次ぐとの懸念が広がっている。西濃健保解散の一因は今年度から始まった高齢者医療への拠出金負担増による収支の悪化にあり、他の企業健保もほぼ同じ事情を抱えているからだ。解散すると加入者は政府管掌健康保険(政管健保)に移行するため、企業と社員の負担は一定限度に押さえ込めるが、国の税負担は増加し、最終的には国民にツケが回ることになる。(桑原雄尚)
 社員700人以上の企業は、自前の健保を持つか政管健保で済ませるか、のどちらかを選択できる。大企業の場合、保養所の充実や独自の人間ドック実施などで企業イメージの向上につながるため、ほとんどが自前の健保を持っている。

 健康保険の保険料率は給与の8.2%と定められている政管健保と異なり、企業健保は原則として料率を独自に決定できる。だが、大企業の場合、健保の資金が潤沢なため、8.2%以下に抑えられていることが多い。8月1日付で解散した西濃健保(グループ58社のうち31社の従業員や家族約5万7000人が加入)も、それまでの料率は8.1%だった。

 ところが、制度改正により、平成19年度に36億円だった西濃健保の高齢者医療拠出金が20年度には6割増の58億円に増え、収支が急速に悪化した。これを補うには10%以上の料率引き上げが必要。同社は「積立金を取り崩しても赤字だ。料率を上げれば従業員にメリットがない」として健保解散を決断し、政管健保への移行を決めた。

 ■他社に波及?

 財政が厳しくなったのは西濃健保だけではない。健保組合連合会(健保連)の推計では、今年度の健保組合全体の経常赤字は過去最大の6322億円。約1500ある健保組合の約9割が赤字に陥る見通しだ。

 4月からの前期高齢者(65〜74歳)の医療費に関する納付金制度導入が主因だ。厚生労働省によると、高齢者医療に対する今年度の健保組合の負担総額は2兆6100億円。昨年度より3900億円増えた。増加分のうち約8割を前期高齢者関係が占めている。3月まで前期高齢者に対する健保組合の負担は、原則的に会社員OBが加入する「退職者医療制度」だけだったが、赤字体質の国民健康保険(国保)救済のために、4月から自営業者ら国保加入者を含めた前期高齢者全員に負担対象が拡大したためだ。

 ■来年4月がヤマ

 企業の健保組合が解散すると、加入者は政管健保に移る。政管健保は医療給付費の13%分を国庫で負担しており、解散が続けば国庫負担額も増え、結果的には国民にツケが回ることになる。厚労省によると、西濃健保の解散で約16億円国の負担が増えた。

 政管健保の8.2%よりも高い保険料率の健保は約200組合、ボーダーラインの8.0〜8.2%は約120組合。これらの健保組合は今後の財務状況次第で政管健保への移行を決断することもあり得る。

 健保組合の積立金(法定準備金、別途積立金)の総額は18年度末で4兆円以上もあるため、与党内には「まだまだ余裕がある健保組合もある」(自民党中堅)という見方もあり、厚労省は西濃健保の解散を「それぞれの会社、健保組合の判断」(舛添要一厚生労働相)として静観の構えだ。だが、保険料率の改定は通常、年度の初めにある。このため、来年4月が「次の解散のヤマ場」(幹部)と指摘されている。

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