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2008年08月28日(木) 14時11分

苦境の証券各社、赤字回避の奥の手に「準備金の取り崩し」ダイヤモンド・オンライン

 「想像以上の苦境だ。前期はなんとか利益を捻出できたが、今期はいったいどうしたらよいのか」。現在、証券各社は頭を抱えている。米国サブプライム問題に端を発する損失処理負担に加え、株式市場の長期低迷により、投資家離れが進んで儲けが落ち込んでいるからだ。

 2008年4−6月期の各社の業績は、前年同期と比べて軒並み大幅減益となった。大和証券グループ本社は対前年同期比約78%、日興コーディアル証券は同約34%も純利益が減少。インサイダー事件の余波も響いた野村ホールディングスにいたっては、約766億円もの最終赤字(純損失)だ。

 しかし、決算数字から見える彼らの苦境ぶりは、ほんの一部に過ぎない。「本当の台所事情はもっと厳しい」(証券関係者)のが現状だ。実は、ある「奥の手」を使って減益幅を縮小させたり、赤字を回避しているケースも多いという。

 その「奥の手」とは、「金融商品取引責任準備金」(以下、準備金)の取り崩しである。この準備金、売買時の事故に備えて、自社の売買代金の大きさを基準に一定割合を積み立てることが義務付けられている。ポイントは、積み過ぎたおカネの一部を取り崩して、P/L(損益計算書)上の「特別利益」に計上することが認められていることだ。

 そのため、業績が悪化した各社は、我れ先にと積み過ぎた準備金を取り崩し、この4−6月期は利益を底上げしている。上場・非上場の主要証券30社(連結・単体含む)を対象に調査したところ、程度の差こそあれ、実に8割方が準備金を取り崩しているのだ。

 08年3月期と直近4−6月期を比較して、準備金を「取り崩した割合」と「取り崩した額」が大きい企業トップ10を紹介しよう。

「取り崩した割合」が8〜9割と特に高いのは、極東証券(約93%)、光世証券(約91%)、高木証券(約86%)、丸八証券(約85%)となった。6〜7割が、藍澤證券(約77%)、岩井証券(約75%)、東洋証券(約71%)、東海東京証券(約64%)、SMBCフレンド証券(約61%)、水戸証券(約60%)など。

 「取り崩した額」が大きいのは、岩井証券(約11.1億円)がダントツで、マネックスグループ(約9.5億円)、楽天証券ホールディングス(約8.9億円)、三菱UFJ証券(約8.7億円)、東洋証券、藍澤證券(各々約8.1億円)、岡三ホールディングス(約7.4億円)、コスモ証券(約7.2億円)、SBI証券、SMBCフレンド証券(各々約6.9億円)と続く。

 特に目立つのが、大手と比べて営業力が弱い中堅証券の準備金への依存度が高いことだ。準備金の「戻入額」は、東洋が経常利益の約4.4倍、岩井が同約3.9倍、藍澤が同約3.6倍、高木が同約2.8倍と、本業に関わる利益を大幅に上回っている。「もし準備金を取り崩さなかったら、世の多くの中小証券は減益や赤字転落だった可能性が高い」(証券関係者)。

 彼らが多くの準備金を取り崩せた背景には、「金融商品取引法の経過措置の適用により、この4月から準備金の積み立て負担が減った」(証券関係者)という事情がある。

 従来の準備金(証券取引責任準備金)は、委託ばかりでなく自己売買も積み立ての対象とされており、算定基準が売買高ベースだった。そのため、自己売買の儲けが大きいことに加え、低位株の扱いが多く売買代金に比べて売買高が膨れがちな中小は、準備金の圧力が大きかった。しかし、4月以降は、自己売買が積み立て対象から外され、算定基準が売買代金ベースへと変更されたため、積み過ぎた準備金を大量に取り崩せたのである。

 直近の四半期では、各社にとってまさに「慈雨」となった準備金だが、これは「一時的な利益」であり、取り崩せる額にも限度がある。証券各社が準備金に依存する現状は、業界を取り巻く環境の厳しさを物語っている。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

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