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2008年08月28日(木) 17時04分

白鳥撲殺事件の現場に立ち、考えたことオーマイニュース

 13歳のころ、私はいったい何をしていたのだろうか、と考えた。

 中学2年生の夏休み、私は生まれたばかりの子犬を拾った。ダンボールの中に入れられたまだ目も見えていていない犬の赤ちゃん。鳴き声に思わず足を止めてしまい、後悔してしまった。なぜなら、私は犬が大の苦手だったからだ。

 けれど、捨てられている子犬をどうしてもそのままにしておけずに、こわごわと抱いて家につれて帰った。そして、母親に哺乳(ほにゅう)瓶を買ってもらい、数時間おきにミルクを与えた。生き物を育てるってこんなに大変なのかと思った。

 人間の赤ちゃんも数時間おきにミルクを飲むのだと聞いたときは二度びっくりした。睡魔と夏の暑さと、手にしたときの小さいながらもずしりとした子犬の重みと温かさと、ちょっと湿ったにおいは今も体感として残っている。初めて自分以外の生命に対する責任を感じた夏だった。

 毎日新聞によると「羽を広げて抵抗する鳥を殺すのが楽しかった」のだという。

 茨城県水戸市の千波湖で4月28日に起こった白鳥の惨殺事件の犯人は、市内に住む中学3年生の少年(15歳)と中学2年生の少年(13歳)だった。彼らが手にしたのは、捨てられた子犬ではなく、白鳥を殺す凶器だった。

 私は、この事件を最初に聞いたときに「殺された水戸・千波湖の白鳥と黒鳥」という記事を書いた。犯人が判明した後も、ずっと心にひっかかっていた。

■事件後の千波湖へ

 6 月下旬、事件が起こってから初めて、水戸市の千波湖に出掛けた。梅雨ぐもりの平日であるにもかかわらず、千波湖のまわりを歩いたり、走っている人はいた。水辺には黄菖蒲(しょうぶ)が咲き、青葉をつけた木々も美しい。事件現場に行ってみても、この場所であのような悲惨な事件が起こったとは信じられなかった。

 千波湖で飼われている白鳥の世話を市から委託されている貸しボート屋のスタッフに事件後の話を聞いてみた。

─——ゴールデンウィーク期間中の事件となってしまいましたが、観光客の反応などはどうでしたか?

 「千波湖が好きで来てくれる人が多いので、残念がる声をよく聞きました」

———犯人は中学生でした。

 「まさか子どもがやったとは思っていなかったのでショックでした。きっとむしゃくしゃした大人がやったのだろう、と思っていました」

———千波湖の白鳥に餌をあげるときなど、事件後、鳥たちに何か変化はありましたか?

 「餌をあげると、チョコチョコと近寄ってはくるんですが、前より寄ってこなくなりましたね。事件として発覚する前にも白鳥の屍骸(しがい)は見つかっていたのですが、そのときは、白鳥同士が突っつきあいをしたためだと思っていました。交尾のときの突っつきあいはすごいんです。けれど、あれも中学生の犯行でした。あのときに気づいてあげられていたら、と思っています」

  ◇

 皮肉にも撲殺事件の起こったゴールデンウィークから今日まで、命を軽んじる嫌な事件が続いた。そんな事件を耳にするたびに、自分の無力さにさいなまれた。閉塞(へいそく)感に心が覆われて、暗い気持ちでいっぱいになる。

 今後もこうした事件は起こるのだろうか。悲惨な事件はなくならないのだろうか。いや、「未来」はまだ起こっていない。起こっていないから「未来」なのだ。だから、「未来」を暗く色付けるのはやめよう。なぜなら人間の想像力の中にこうした問題を解決する鍵があると私は、信じているからだ。他者を想像する力、未来を想像する力。この力の中に、私は希望を見いだしたい。私はまず自分自身から、その力をはぐくもう。

 そう強く思えたのは、事件現場で新しい命を発見したからだ。人間の勝手なセンチメンタリズムかもしれないけれど、事件現場の草むらからカルガモの親子が列をなして飛び出してきた姿に、心が揺さぶられた。ちょうどその日の新聞に、撲殺された親鳥の卵が、保護されていた動物園で孵化(ふか)しなかったと聞いていたので、なおのこと心に刻まれた。

 ある尊敬する人から教えてもらったマハトマ・ガンジーの言葉がある。

 「You should be the change that you want to see in the world」

 (この世界で変化を望むなら、まずは、あなた自身が変わりなさい)

 私はそのようにありたいと思う。

 それが、この事件を通して考えた私なりの「答え」だ。

(記者:柳川 加奈子)

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