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2008年08月27日(水) 12時45分

大麻草からつくるアンドンポ(安東布)オーマイニュース

 今回の旅は、パンスターフェリー組と飛行機組に分かれて出発しました。わがフェリー組の連れは、ハングル検定一級の吉山賀津子さんと、初歩の三嶋桃代さん。初日は3人で安東を見ることにしました。吉山さんと私は名所旧跡ならたいてい見ているので、三嶋さんの希望を優先することにしました。ところがこの三嶋さん、観光地図を見ながら旧跡には目もくれず、イチョウが見たいとかサム(麻)の生産地に行きたいなどといいだします。おかげで私もいくつかの初体験を味わうことができました。

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 まず安東民俗博物館に行きました。安東では毎年10月初旬にタルチュムチュッチェ(仮面劇祝祭)が行われます(今年は9月26日〜10月5日)。いくつかの広場で、仮面劇だけでなく、安東をはじめとする韓国各地の祭りが繰り広げられます。これを体験していますから、博物館の展示もだいたいは把握しています。ところがここで三嶋さんの、麻の展示へのこだわりが発揮されました。それに加えて見学者の中に、麻を涼しげに着こなしたオジサンがいたからたまりません。

 「モシッソヨ(カッコイイですね)」などと話しかけて、たちまち下着の竹ひごまで見せていただきました。

 おかげで三嶋病が伝染した吉山さんと私も乗り気になって、博物館の解説者に生産地を聞きました。イマミョン(臨河面)クムソリ(琴昭里)です。

 タクシー運転手のリュ・グニさんが連れて行ってくれたのは、臨河農協でした。麻布博物館のようなものを想像していたので、ちょっと思惑は外れましたが、博物館で会ったオジサンの麻とは質の違う「安東布」を味わうことができました。

 ポジャギ(もとの意味は風呂敷ですが、ふつう韓国式パッチワークをいいます)に使う「ハンサン(韓山)モシ(からむし)」も超高級ですが、安東布もなかなかのものです。麻といえば、ピシッとのり付けしてアイロンをかけたようなこわばりがありますが、安東布はふんわりしていて優しい感じです。寝床と仲良しの私は、服より寝具に使いたいと思いました。

 ちょっと値段を聞くと、50cmが9万ウォン(約1万円)なんて答えが返ってきます。製作過程を聞くと、納得できる値段なのですけれど、私たちは目の正月をさせてもらっただけで退散しました。

 安東布は大麻から作ります。そう、麻薬の大麻です。運転手のリュ・グニさんも、ヒロポンと同じく麻薬のテマ(大麻)だと説明していました。大麻とヒロポンは習慣性があるという意味では同じ麻薬ですが、作用は正反対らしいです。大麻は幻惑的でヒロポンは覚せい剤。疲れ知らずだから労働や受験勉強に重宝だと、戦後ずいぶんはやったのがヒロポンです。

 麻薬の原料であることを、生産者が知らないはずはありません。事実生産するには、許可が必要なのだそうです。

 大麻は、3月に植え7月の初めころに、青々と育ったところを刈り取ります。花が咲く前に刈り取るので、現地の人には麻薬ということは知っていても、その意識は薄いようです。

 安東地方の気候と土の質が、大麻の栽培に適しているそうです。大麻をサムといい、麻布はサムベです。

 伝統の技術で織られる安東布は、韓国最高の織物として、朝鮮時代には国王への献上品にされていました。

 安東布の生産過程を、KBSの「韓国の美」というプログラムで見ました。糸作りから織り上げるまで手作業なので、夜なべをしても一反織り上げるのにたっぷり2カ月かかります。NHKでも日本の麻織物の作業を見たことがありますが、大量生産可能な実用品ではなく、それぞれに至極の芸術品だと思います。

 絹織物も安東布も手が出ないのは同じですが、私は安東布の方に親しみを感じます。

(記者:塩川 慶子)

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