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2008年08月26日(火) 07時30分

白川日銀総裁会見の一問一答ロイター

  [大阪 25日 ロイター] 白川方明日銀総裁は、関西経済団体との懇談会後、記者会見した。詳細は以下の通り。
──金融政策を変更するとしたら、その前提条件と変更時期はいつくらいになると予想しているか。
「金融政策の運営というのは、金融政策の効果波及のラグは1年半から2年程度あるといわれているので、そうした期間の長さを意識しながら、先々経済、物価がどのように推移するか予測をたてる。それに基づいて金融政策を運営していく。結論的には少し足元停滞しているが、その後は物価安定のもとでの持続的な成長に復していくというのが標準的なシナリオ。ただ景気については下振れリスク、物価については上振れリスクを意識しなければならない段階だと思っているので、毎回の決定会合ではその点を十分チェックをしていかなければならない。私どもとしては毎回の決定がそれがベストだと思って、次の会合に臨んでいく。金融政策の条件としては、物価安定のもとでの持続的成長という日銀に課せられた使命に照らして経済情勢を点検していくに尽きる」
 ──中国のオリンピックが終わって、中国経済が腰折れするのではないかといわれているが、日本経済への影響についてどのようにみているか。
 「中国経済はこのところ減速しつつも高い成長を続けていると判断している。やや減速しつつも引き続き2けたの高い成長率を維持している。オリンピック後も、緩やかに減速しつつも高成長を続けると判断している。輸出はすでに米国向けなど減速しているが、今後も緩やかな減速傾向をたどると思う。消費については、オリンピック後の基調変化を示唆するような要因は特段見当たらないと思う。固定資産投資については今後の投資意欲は引き続き高いと見ている。昨年秋以降の過熱抑制策の影響が多少みられるが、中国政府はここへきてインフレ抑制とともに、安定的な高成長を掲げており、この先投資が急速に減速する可能性は小さいと判断する」 
 「ただ、上下両方向に不確実性があることは十分認識している。まず輸出は世界経済の減速が一段と強まれば下振れリスクがある。一方、近年の内陸部の経済発展に象徴されるように、中国経済は高い原動力を有しており、経済政策次第では景気上振れ、インフレが加速する可能性もある。こうした上下両方向のリスクを踏まえて、中国経済をはじめ、新興国の経済動向には十分注意を払っていきたいと思う」
 ──9月期末に向けて外国銀行の流動性への救済策は何か考えているのか。
 「日銀の金融調節は邦銀・外銀を区別することなく、日本の市場全体の安定のためにいろいろな工夫をやってきた。幸い今回、金融市場は全体として安定している。9月末だが、先週末までの状況で判断すると、9月末越えのレートが従来の期末に比べて大きく上がっているということはない。期末なので若干は上がるが、全体としては特にタイトになっているということはない。日本の金融の枠組みは97年以降のさまざまな経験の中で大変整備されてきている。そのため、9月末に向けて何かやらなければいけないという状況ではない。持っている手段を使って必要があれば対応するということに尽きる」
 ──景気回復が後ズレした後の、回復のメカニズムと時期についてうかがいたい。
 「回復のメカニズムを考える上で、なぜ、今景気が停滞しているのかということを考える必要がある。いくつかの要因があるが、大きく分ければ2つだと思う。1つは交易条件の悪化に伴う内需の減少。2つ目はサブプライム問題に端を発した国際金融市場の混乱および世界経済の減速。この2つは少し性格が異なるので、それぞれを点検することが回復のメカニズムにつながると思う」
 「まず交易条件の悪化だが、エネルギー・原材料価格の上昇がいつまで続くのか、これはいろいろな見方がある。7月決定会合後の会見で、どちらかというと、日本銀行の作業過程で現状横ばいでおくという前提について、それは楽観的すぎるのではないか、先行き上がっていくのではないか、という声が多かったように思う。足元は少し下がってきているが、下がった後さらに下がるのか、あるいは反転するのかどうかは、わからない。ただ、エネルギー・原材料価格の上昇がずっと続くわけではないと思う。仮にずっと上がると、先進国の交易条件が悪化して景気が減速し、世界全体の需要は減少するし、逆にエネルギー・原材料価格上昇の背後に新興国など世界経済の急激な成長があったなら、それがいつまでも続くのではなく、いつかは政策的あるいは技術的な反落があると思う。それがいつなのか特定は難しいわけだが、やがてこの交易条件の悪化もどこかでとどまり、そこから先は悪化したレベルから好転していくと、マイナス要因がやがて減衰していくというのが一つある」
 「一方、サブプライムに端を発した世界経済の悪化の方は少し性格が違うと思う。サブプライム問題に端を発した混乱が世界経済に広がっていくということになると、世界全体の景気を押し下げていくようになる。一方で米国の金融機関も公的当局もいろいろな施策を講じている。(世界経済の回復は)金融市場の状況がいつ是正されていくのかにかかってくる。われわれの見通しの上では、世界経済の減速というのは、いずれこれが徐々に戻っていけばという想定にたっている」
 「交易条件についても、エネルギー・原材料高、サブプライムローン問題についても、いろいろな要因はある。が、各中央銀行の景気判断についての分析をみると、若干の差はあるが、驚くほど似ている。(質問にあるように)いつだと特定はできない。特定することにあまり意味はないというか、特定するよりも、標準的なケースを想定しながら、その時期が後ずれするのか先ずれするのか丹念に点検するのが一番賢明な対応だと思っている」
 ──政府の総合経済対策では赤字国債の発行も取りざたされているが、財政規律や長期金利への影響についてうかがいたい。
 「長期金利に財政規律というものが最終的には反映されてくる。一国の財政バランスが大きく悪化し、債務を返済していく能力がないと思われると、市場で金利は上昇していく。現在日本の財政状況は大変厳しいわけだが、しかし日本の国民が財政規律にしっかり取り組んでいくという意思を持っているというふうに思っているからこそ、現在の金利がついている。逆に言うと、そういう意思がないと思われると長期金利は上がっていくということになる」
 「中央銀行がその中で果たせる役割というと、物価安定のもとでの持続的成長という目的に対して忠実に金融政策を運営していくとことが最も大きな条件。そこについて疑念を持たれると、これは長期金利が上がっていくことになる。もう少し即物的に言うと、長期金利は成長率と物価上昇率に関する現在から将来への見通し、そしてその不確実性を反映する。現在、成長率の方は減速しているし、物価の方は少し上がってきている。しかし先行き10年を展望した場合にインフレ率が加速していくと皆みていないし、日銀がそういう政策を許容するとは見ていないと思う」
 ──今日、トヨタが乗用車の値上げを発表した。価格転嫁が進んでいる中で、耐久消費財も値上げの動きが出ている。値上げの動きが今後、景気にどのような影響を与えていくか。
 「現在の物価上昇の原因はエネルギー・原油価格の上昇に伴う価格転嫁ということ。今日の講演でも申し上げたが、それがどんどん広がって二次的効果があるかということに注目しているわけだが、現時点では二次的効果が大きく広がっていると判断していない。ただ、もし今後これが広がっていくと、その可能性は小さいと思っているが、これは持続的成長基盤を損なっていく。いったんそうなると経済はスタグフレーション的体質になっていくので、注意してみていく。ただ現在はそういう状況にはなっていないとみている」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080826-00000374-reu-bus_all