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2008年08月26日(火) 19時41分

東大生、売り手市場で官庁不人気 外資はキャリア官僚に迫る勢いMyNewsJapan

 おそらく多くの方が、東大は霞ヶ関や、大手の日本企業に多くの人材を輩出している、というイメージをもたれているだろう。その進路動向を見ることで、日本のいわゆるエリートたち(このような言い方には議論があるが、深くは触れない)が将来に何を求め、どう動いているのか、その一端が見えると思い、このほど調査・分析を行った。進路データは、民間企業は東京大学公認の『東京大学新聞』、公務員は『公務員試験受験ジャーナル』を利用した。

 東大生といえば国家公務員、国家公務員といえば東大生、というイメージをもたれている方も多いと思う。だが、2008年に官公庁に就職した東大生は、学部・大学院合わせて208人で、過去5年間では最低だった。特に学部卒の不人気が顕著で、3年前の 2005年には160人近くいたが、今年は120人強しかいなかった。とはいえ、9年前(97年)と10年前(98年)は、ともに全体で190人だったため、一直線で低下傾向という単純な話ではない。

 2003年(249人)、2004年(229人)、2005年(247人)の「後期就職氷河期」は、長引く不況で民間企業が採用を絞っていたことから、一時、学生全体の「公務員志向」が強まり、東大生も保守化した。98年より2003年のほうが59人も多い。

 しかし、全体が保守化したのではなく、もう1つの傾向が生れた。この時期、一部の学生は先鋭化しだし、外資系企業を目指しはじめた。2003年からさかのぼること5年前の1998年の時点では、外資に就職する学生は稀だった。日本IBMに26人、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に9 人の学部生が就職してはいる。しかし、マッキンゼー3人、ボスコンは2人のみ。外資証券も、ゴールドマン・サックス4人、メリル・リンチ4人ぐらいだった。当時は外資の日本市場への参入も少なく、認知度も低く、就職先としてメジャーではなかった。

 だが、1998年に全体で9人だったアクセンチュアは、2003年には院卒で16位(10人)、学部卒に至っては10位(12人)にまで上りつめ、合計 22人になった。これは2008年の人数(21人)とほぼ同じ水準で、すでに2003年には、一部外資が人気化していた。外資証券もゴールドマン・モルガン・メリルの3社合計で、9人(98年)→21人(03年)と、この時期に倍以上に増えている。

 つまり、バブル崩壊後の「失われた15年」、長引く不況と就職氷河期が続き、民間企業が激しい買い手市場となるなかで、東大生は、公務員と外資の、両極化の傾向を見せた。一つの群は、実力主義は怖いから、一生安定した身分で仕事をしていこうという学生たち、もう一つの群は、年功序列のレールのない世界を志し、実力主義の世界に飛び込んでいく学生たち。前者が公務員を目指し、後者が外資系企業を目指した。
 
 そして、小泉政権を経て不況を脱し、売り手市場真っ盛りとなった2008年(採用活動は2007年春)、一方の極である公務員は、その待遇の悪さや度重なる不祥事などから一気に減少し、10年前の低水準に迫る水準に。自分の周りを見ていても、「売り手市場」=「楽に企業から内定を貰える」と考え、試験勉強をしなければいけない公務員の道を捨てた学生もいたと感じている。

 売り手市場になって、もう一方の極である外資はどうなったかというと、外資系企業を目指す潮流はとまらず、ますます人気化を見せ、裾野が広がった。ゴールドマンやアクセンチュアは、2003年も2008年もほぼ同人数であるが、こうした知名度の高い会社だけでなく、一般には知られていない外資証券などへ就職する学生が増え、外資人気は定着したかに見える。
 
 外資系コンサルティング会社では、ボストン・コンサルティング・グループ(13人)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(10人)、アクセンチュア(21人)の3社を合計すると43人になるが、これは学部卒で三菱商事・住友商事・三井物産に就職した学生と同じ人数となり、もはや外資コンサルは、大手商社並みだ。

 外資系証券会社へ就職を決めた学生も多い。ゴールドマン・サックス証券(11人)、モルガン・スタンレー証券(10人)、リーマン・ブラザーズ証券(7人)、バークレイズ・キャピタル証券(7人)、UBS証券(8人)、ドイツ証券(7 人)。他にもあるが、これだけでも50人に上る。5年前の2003年は、外資証券ではモルガンが7人就職していたが、他は微々たる人数であったから、裾野が広がった。

 外資コンサルは上記3社以外にも多数ある(戦略系だけでもATカーニー、アーサーDリトル、ベイン…)ため、外資コンサルと外資証券だけで百数十人にはなる。キャリア官僚(208人)と人数が逆転する年も近いかもしれない。

 彼ら彼女らの選択は何を意味するのだろうか。理由はいろいろ考えられる。外資系企業は日系企業に比べて若いうちから責任ある仕事を任されることが多く、早くからスキルアップが可能で、やりがいという面でも恵まれている。実際私の友人でも、仕事のやりがいや自己成長を求める人たちは外資系企業の選考を受けていた。

 このような流れは、上述した公務員不人気と関連があるように思われる。つまり東大生の間では、仕事のやりがい・自己成長という側面において、「外資系企業>日系企業>公務員」という構図が出来上がっているのだ。少なくとも、自己成長を重要視して公務員になろうとしている東大生は、私の知る限りではいない。

 おそらく今後も、エリート層の外資系企業への流出は、よほどのことがない限り減速しないと考えられる。年功序列制度の崩壊に伴って自律的なキャリア形成が必要とされるようになった昨今、それをいちはやく実現できるのが外資系企業に他ならないからである。多くの学生が既にその事実に気づいて外資系企業へ就職している。

 もちろんそのことは、学生が自身のキャリア形成に対して非常に強い関心をもち、その実現のために歩んでいこうとする現れととることができ、評価すべきことと考えられる。自分の将来のことなど考えず、とりあえず有名企業ばかり受けるというような、よくありがちな学生とはわけが違う。しかし憂慮すべきは、そのような学生たちがそっぽを向いてしまった官公庁である。

 私の周りにも「公務員だけは絶対に嫌だ」「公務員にだけはなりたくない」と言っている友人が何人もいる。官公庁が不人気な理由は、統計的データがないので何とも言えないが、天下り規制が議論されていること、そして年功序列組織であることに原因があると思われる。

 せっかく集った優秀な人材がおのおの活躍できる場を提供した方が、国のためにも官僚のためにも確実に良い。成果主義的な人事処遇を導入しない限り、官公庁の不人気の流れは変わらないだろう。

(林拓磨)


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