記事登録
2008年08月26日(火) 21時14分

<アフガニスタン>復興支援の難しさ、改めて浮き彫り毎日新聞

 旧支配勢力タリバンの勢力回復で、治安悪化が著しいアフガニスタンの東部ジャララバード郊外で26日、日本の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」(本部・福岡市)のメンバー、伊藤和也さん(31)が拉致され、約10時間後、解放されたとの情報が入った。同会は「農村の生活改善がなければアフガン復興もありえない」と、あえて危険な地域に入り、実際に地元住民の役に立つことで信頼を得て安全を確保してきた。ペシャワール会メンバーが誘拐されたことは、日本がアフガン復興支援にかかわることの難しさを、改めて浮き彫りにした。

 「自衛隊が(アフガンに)行けば、反日感情に火が付き、アフガンで活動する私たちの安全が脅かされる」。「ペシャワール会」代表の中村哲医師は、日本に帰国するたびにアフガンへの非武装支援の重要性を繰り返してきた。

 同会は、1984年からパキスタン北西辺境州の州都ペシャワルを拠点に無償医療活動を始めた中村医師を支援する目的で設立された。福岡市に本部を置き、現在はアフガニスタン、パキスタン両国で難民への医療支援や水源確保事業を続けている。

 会は、現地の生活に溶け込み信頼を得ることで、安全を確保してきた。活動地域は01年の米軍によるアフガン攻撃開始後、治安が急速に悪化。昨年末には現地の国連関係機関から「会の日本人スタッフ2人を誘拐する計画がある」と注意を呼びかける文書が届いた。

 しかし、移動中に武装した警護スタッフを付けると、かえって武装勢力の標的になる恐れがあり、あえて付けなかった。地元の言葉を学び、活動中は現地の民族服を着るなど、現地の習慣を重視してきた。

 こうした「草の根」活動は、カブールから出る際には、車列を組んで地元警察に警備を要請する日本政府関係者には到底不可能なものだ。「(ペシャワール会は)現地に根付き、タリバンとも一定の信頼関係を築いている」と、外務省幹部も評価する。

 だが、同会は今回の事件を受け、現地での活動の大幅な見直しを迫られる恐れもある。福元満治事務局長は「アフガンでは長引く戦乱と干ばつで人心が荒廃している。中村医師ら現地の判断に任せるが、日本人スタッフは現地から一時引き揚げとなる可能性が強い」と話す。【斎藤良太、反田昌平、安達一成】

 ◇攻撃が一層激しさ増す

 拉致事件が起きたジャララバードは、旧支配勢力タリバンが拠点とするパキスタンとの国境地域から数十キロの近さだ。「拉致がタリバンによるものだとすれば、今のタリバンは道理が通じなくなった。(政権当時の)昔のタリバンならば、住民の生活改善のため活動するペシャワール会を標的にすることはなかった」。タリバンをよく知るパキスタン治安部隊幹部は語った。

 アフガンでは今年に入り、タリバンによる外国軍、政府軍に対する攻撃が一層激しさを増している。NGOなどの外国人をターゲットとした拉致や襲撃事件も相次いでいる。

 タリバンの勢力回復を下支えするのが、アフガン国民の間に根強い反米、反政府感情だ。米軍主導の多国籍軍は、アフガン経済の復興よりもタリバンや国際テロ組織アルカイダの掃討に主目的を置き、農村の生活復興は置き去りにされている。

 国連も米国と同一視され、タリバンの活動地域での復興事業は中断。カブールと比べ、タリバンの活動が活発な東部や南部は、タリバン政権時代よりも生活が悪化したというのが住民の実感だ。【ニューデリー栗田慎一】

【関連ニュース】
アフガニスタン:日本人男性、拉致される NGO職員
アフガニスタン:外務省が緊急対策本部 松浪議員は現地へ
アフガン:ペシャワール会員拉致 「なんとか無事でいて」 関係者に緊張走る
アフガン:ペシャワール会職員、東部で拉致 静岡出身の男性

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080826-00000141-mai-soci