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2008年08月22日(金) 13時34分

「もっと大事なものに気づいて」 女性たちの想い(亀山早苗コラム)オーマイニュース

 巷間(こうかん)、言われていることだが、男性を巡る社会的背景はかなり厳しい状況になっている。

 「実は、私も彼のリストラが原因で別れました」

 そう言うのは淳子さん(30歳・仮名=以下同)。2年つきあっていた3歳年上の彼が、会社の業績不振にともなって、リストラされたのだという。

 「でも、彼はそれを私に、1カ月以上言わなかったんです。ようやく言ってくれたとき、私は驚いたけど、もちろん励ましました。リストラされたって、別に彼が悪いわけじゃないと思ったから。だけど、それから彼、性格が変わったように、すっかりいじけてしまって。何かあるとすぐ『どうせオレなんて』と言うようになっていった。私にはそれが耐えられなかったんです」

 ふたりの歯車が狂っていった。淳子さんが励まそうと慰めようと、彼は「自分は会社からいらないと烙印(らくいん)を押された男」という自分へのレッテルを変えようとしなかった。

 「リストラされて、彼本来の性格が出てくるようになったのかもしれない。何かマイナスのことがあるたびに、こういうふうに落ち込まれたら一緒に歩いては行けないと思ったんです。半年ほど悩み苦しんだけど、最後は私から別れを告げました。そのときも彼は、『どうせオレは誰にとってもいらないヤツなんだな』と自嘲(じちょう)的に言っていましたね。逆に、そういうことを言うことで、彼は私を傷つけていたのに、それには気づいていないんでしょう」

 仕事を失うということは、大ごとではある。生活資金を失う以上に、彼が言うように「不要な人間」とレッテルをはられたと感じてしまうから自己評価も下がる。だが、女性たちはそんなふうには見ていない。お金より、もっと大事なものがあると知っているから。

 「もうじき彼と結婚するんです。つきあったり別れたりを繰り返しながら7年、彼が突然、プロポーズしてくれて」

 にこやかにそう話してくれたのは、優佳さん(32歳)だ。ひとつ年上の彼は学生時代から芝居をしていたが、大学卒業と同時に一度は就職した。しかし夢が忘れられず、優佳さんと出会ったときには会社を辞めようかどうしようか悩んでいるころだった。

 「やりたいことをやったほうがいいと言ったんです。私もその直前に会社を辞めたばかりだったから。彼に言わせると、私の言葉が力になったとか。その後はアルバイトと役者で、なんとか食いつないできました。私は2度ほど転職したあとで、今はフリーのwebデザイナーをしています」

 役者稼業は安定せず、彼は常に苦労していたが、決して諦(あきら)めなかった。時に弱音を吐くと、優佳さんは「諦めたら、そこで終わりだよ」と叱咤(しった)し続けた。彼がそれに怒って連絡がとれなくなったことも何度もある。

 「だけど縁があったんでしょうか、決定的な別れを迎えることはありませんでしたね。ここ2年くらいは彼も落ち着いてきて……。仕事もだいぶ順調に入ってくるようになったなと思っていたら、ある日突然、プロポーズされたんです」

 お互いにフリーランスの仕事だし、いつ仕事が途切れるかわからない。不安だらけだが、ふたりだから乗り切れると優佳さんは笑顔を見せる。

 「安定した収入があれば幸せというわけじゃないと思うんです。いざとなれば、私が昼夜働いて彼を食わせてやると思っているし、彼も彼で、『何があっても、ふたりで食べていくくらいどうにかなる』と言ってる。周りからは『甘いんじゃないの』と言われるけど、私たちがやっていけると思っているんだから、周りの評価はどうでもいいんです」

 今どき、安定した会社にいればすべてOKというわけでもないし、と優佳さんはつぶやいた。

 女たちは、男に幸せにしてもらおうとは思っていない。男の収入をあてにしてラクをしようと思っている女性たちは、ごく一部なのだと実感する。だが、男たちは「金のない男は結婚できない、恋愛さえできない」と思いこんでいる。

 もちろん、生活していくにはお金は大事だ。だが、もっと大事なことがある、と女たちは声を上げ始めている。

(コラムニスト:亀山 早苗)

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