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2008年08月22日(金) 13時29分

最新空気力学設計の風車も雷には弱いオーマイニュース

 最近、日本でもあちこちで風力発電の風景を目にするようになった。いつもは遠くから眺めている風力発電の現場を間近でじっくり見ようと、静岡県東伊豆町が運営する風力発電所を訪れた。

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 自動車で砂利道を上っていくと相模湾を見下ろす山の稜線(りょうせん)を吹き抜ける風の道に、3基の風力発電塔が150メートルの間隔で設置されている。高くそびえる塔の先端に取り付けられたナセルに誘導発電機が収納され、その回転軸に取り付けられた翼に風を受けて発生する揚力で発電する発電システム—— これが風力発電だ。

 エアロダイナミック設計の美しい曲線は目に優しいが、回転する巨大な翼を真下から見上げるとその迫力はすごい。出力 600キロワットの誘導発電機の軸に取り付けられた回転翼は直径45メートルの円周に沿って右回転する。翼が垂直に立った時の先端の高さは60メートル。遠くからの眺めはどこかメルヘンチックだが、近寄って見る風車の大きさに圧倒される。

 風車は秒速3メートルの風を正面から受けて1分間に17回転の速度で回る。風速が秒速5.5メートルになると自動的に25.5回転に切り替わる。風速がそれ以上になると、翼の角度を自動的に変えて、 25.5回転を保つ。そして風速が秒速25メートルになると翼が風向きに平行になるよう自動的に調整し停止する。

 毎分17回転の時の翼先端の周速は時速140キロになる。記者が訪れた時の風速は秒速8メートルで、翼は1分間に25.5回転、つまり時速220キロに相当するスピードで回転していた。その時、ガラス繊維強化プラスチック製の翼はしなり、バサッ、バサッと音を立て、まるで巨大なロボットがうめき声を上げているようだ。

 人口約1万4500人、財政規模は約43億2000万円の東伊豆町は発電容量600キロワットの発電塔3基を総事業費約5億2000万円かけて建設し、 2003年(平成15年)12月から稼働している。町役場によると、財源はNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金約2億 3300万円、電力事業債約2億6900万円などで賄い、町役場の一般財源から充てたのは約500万円だった。

 ここで発電した電力は全量、東京電力に売電される。稼働をし始めて2008年(平成20年)6月までの約4年半の稼働率は平均68%で、累計約1900 万キロワット時発電し、東電へ売電した金額は約2億1000万円、二酸化炭素削減量は7000トンになるという。2008年(平成20年)3月にいたる1 年間の発電量は約360万キロワット時だったが、これは東伊豆町の6分の1にあたる1000世帯の消費電力に相当する。

 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」という法律が2003年に施行された。略して「新エネルギー利用特別措置法」、または「RPS法」と呼ばれている。この法律は電力会社に販売電力量に応じて太陽熱、風力、地熱、バイオマスなど新エネルギーで発電される電気の利用を義務付けている。この法律ができてから各地で風力発電所が急速に増えている。

 しかし、日本の風力発電の現状はドイツ、米国、スペイン、デンマークなど風力発電先進国に比べるとはるかに及ばない。日本の風力発電の導入量は2007 年3月時点で1409基、総設備容量は約167万キロワットだが、2010年に目標の300万キロワットを達成しても、現在のドイツの発電量の5分の1に達しないと言われる。
秒速8メートルの風を受けて回る翼は1分間に25.5回転、翼端の周速は時速220キロメートルに相当する=8月14日、静岡県東伊豆町で(撮影:矢山禎昭)

 昼間しか稼働しない太陽光発電と違って夜間も発電でき、石油などエネルギー源を必要としないので価格変動の影響を受けないとか、離島など電力需要規模に見合った発電が可能であることなどのメリットがある風力発電だが、さまざまな問題を抱えている。まず部品代、消耗品や修理・保守点検費が高いと言われる。東伊豆町の場合は三菱重工製を採用し、年間800万円を上回る保守点検費用をかけているという。

 近くに他社の風力発電所があり発電塔が 10本ほど並んでいるのが見える。これはインド製の翼と韓国製の塔を組み合わせてドイツのメーカーが納入したものだという。一基が落雷で翼が破損し運転を停止していた。外国製の場合、部品の取り寄せのために停止時間が長くなる問題も指摘されている。

東伊豆風力発電所の看板には風車の外形図と仕様が表示されている=8月14日、静岡県東伊豆町で(撮影:矢山禎昭)
 特に雷が多い日本では落雷により翼や発電機に損傷を受けやすいと言われる。もちろん避雷針を付けているが、落雷を完全に防ぐのは技術的に難しいそうだ。東伊豆町の風力発電塔でも2004年(平成16年)には2回落雷の被害を受けたという。やはり日本では「ジシン、カミナリ、カジ、オヤジ」と言うだけあって、時代の先端を行く空気力学設計の風車も雷には弱いようだ。風力発電技術は日本の風土に合うようにまだまだシステム改善のための開発の余地がありそうだ。

(記者:矢山 禎昭)

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