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2008年08月22日(金) 00時00分

(上)リンチ否定、ほころび読売新聞

「紀元水まつり」で、かけ声をかけながら、大太鼓を運ぶ人たち(2日、小諸市の紀元会施設前で)

 今月2日、宗教法人「紀元会」本部(小諸市)の敷地は、赤、青、白のちょうちんで彩られていた。白い竜などを模した山車が並び、「紀元」と書かれた法被をまとった男たちがかけ声をあげながら大太鼓を運んだ。

 「世界全人類を病から救う」とされる「紀元水」の発見を祝う「紀元水まつり」は、今年も行われた。だが、近所の住民は「事件後はひっそりとしている。普段は参拝に来る車も少なくなったようだ」と話す。

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 昨年10月15日早朝、県警は、紀元会会員のすし店経営奥野元子さん(当時63歳)への集団リンチ事件で、同会の施設に強制捜査に入り、創設者の二女、窪田康子被告(50)ら21人を傷害致死容疑で逮捕した。

 その6日後、当時、代表役員だった舟橋元博被告(43)(偽証罪などで公判中)らは小諸市内で記者会見し、「家族内のけんかに、居合わせた会員が加わっただけ」と、組織的関与を否定した。

 会員たちは、読売新聞の記者に積極的に接触してきた。「同じ部屋でリンチがあれば分かるはず」「リンチがあれば当然止める」「でっち上げだ」。紀元会と関係のある飲食店に呼び出すなどして、「事件は集団リンチというようなものではない」と繰り返し強調した。

 だが、12月11日、リンチ現場にいたにもかかわらず、「元子さんへの暴行の音も聞いていない」などと、長野地裁で虚偽の証言をしたとして、舟橋被告が偽証容疑で逮捕された。同月28日には、偽証罪だけでなく、元子さんの二女に対する傷害罪でも起訴された。

 1月5日夕、紀元会は再び記者会見を開いた。以前、「暴行が始まる前に帰った」と話していた女性会員は「元子さんに人工呼吸をしました。リンチとは思わなかった」と発言した。説明のあちこちに、ほころびが出ていた。そして、記者への働き掛けはぱたりとやんだ。

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 「『間違ったことをしてはならない』と言っていた先生や大和神社に迷惑をかけてしまい、申し訳ない」——。今年3月、集団リンチに加わった女性会員(81)は自宅で、2002年に死亡した紀元会の創設者と、会員が信仰する神をまつった神社への謝罪を口にした。

 女性は暴行メンバー中、最高齢。つえをついて歩く生活だ。元子さんへの傷害致死容疑で逮捕されたが、「暴行の程度が弱い」として不起訴(起訴猶予)になり、元子さんの二女への傷害罪で罰金20万円の略式命令を受けた。

 設立当初からの会員で、今も月2回以上、大和神社にお参りをする。「紀元水のおかげで病院にかからずにすんでいる。神様がいるということを感じている」

 暴行に加わった理由を、「その場の雰囲気としか言いようがない」と説明する。複数の会員の公判で、長野地裁は窪田被告を事件の首謀者と認定したが、女性は「誰かの指示があったということはない」と否定する。

 大和神社の神司総長で、紀元会責任役員の宇佐見達哉氏は読売新聞の取材に、「(窪田被告を首謀者と認定した判決は)すべて事実ではない。今は明らかにできないこともあるが、(窪田被告の)裁判を通じて覆していく」と述べた。

<集団リンチ事件>2007年9月24日深夜、小諸市の宗教法人「紀元会」の施設内で、同会会員ですし店経営の奥野元子さん(当時63歳)(同市荒町)が多数の会員に、飛びげりされたり、太ももや二の腕を踏まれたりする暴行を約1時間受け、翌25日未明に死亡したとされる事件。当初、病院に運んだ元子さんの家族4人が「すし店内でけんかになって殴った」と話したため逮捕されたが、県警の捜査で同会の施設内で起きた集団暴行事件の疑いが浮上した。元子さんへの傷害致死罪で、これまでに18人が、長野地裁で有罪判決を受けている。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/feature/nagano1219482686839_02/news/20080823-OYT8T00544.htm