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2008年08月20日(水) 11時29分

死にたい人を前にして私たちができることはオーマイニュース

 8月16日、弟がお盆休みということで、久しぶりに2人で街に出掛けた。宮崎は田舎なので、遊びに出掛けるところはそう多くはない。みな同じようなところに出掛けるようで、ショッピングセンターは多くの人でごった返していた。なんとか昼食をとり、弟の運転で日南海岸に向かうことにした。

 お盆と週末が重なったせいか、交通量は多かった。

 宮崎駅前を通り、通称「専門学校通り」と言われる県道341号を南へ進んだところで、前方25メートルほど先にある老松(おいまつ)通りとの交差点の横断歩道上で、不審な動きをしている女性を弟が見つけた。

 その女性は信号が赤にも関わらず車に向かって両手を広げ、車の進行を妨げようとする動きをしていた。女性をよけながら徐行運転をしている前方車に続いて、交差点に差しかかった。

 女性は、私たちの車に何かを言いながらじっとこちらを見ていた。ちょっとただならぬ雰囲気を感じた私は、弟に車を路肩に止めるように言い、弟が警察に通報している間、私はその女性のもとに向かった。

 死ぬつもりなのかもしれない……。

 とっさにそう感じた。

 私が交差点の歩道に近づくと、自転車に乗った男性が警察に通報しているところだった。横断歩道上にいる女性に声をかけた。こちらに気づく様子はなかった。信号が赤にも関わらず、徐行運転で進行中の車を止めて、私はその女性に近づいた。

 女性は、「危ないからこちらへ」という私の声に気づいた。私の顔を見るなり、「死にたい、死にたい」と何度も大きな声で訴えた。そんなことにはおかまいなく、とりあえず、女性を安全な場所へ移動させようと腕を取った。左手首から血が流れていた。安全な歩道へ移動し、止血をしようと思った。あいにくタオルを車に置いてきた。

 「タオルを持ってきてくれ」と弟に大声で伝えた。近くのコンビニにいた青年がタオルを持ってきてくれた。青年にお礼を言い、使わせていただいた。先ほど警察に通報していた男性に、「救急車も呼んでください」と頼んだ。

 警察や救急車が来るまでの間、タオルで応急措置をした。女性の左手首から上の辺りには、リストカットしたものと思われる傷があった。「死にたい」と話していた女性は、少し落ち着いた様子であった。タオルを貸してくれた青年も心配そうに女性を見ていた。私は、「もうすぐ救急車が来るから大丈夫だよ」と声をかけ続けていた。まだ20代と思われる若い女性であった。

 宮崎駅に近い場所にも関わらず、警察や救急車が来るのが遅く感じられた。

 何はともあれ、大事に至らなくて良かった。

 過去に自殺未遂を図った私が言うのも変だが、命はひとつしかない。生きていると嫌なことや投げ出したいこと、死にたくなることもあるだろう。でも、だめだ。死んでしまったら、なんにもなくなってしまう。

 血で汚れた女性の左手を水で濡(ぬ)らした別のきれいなタオルでふきながら、「大丈夫だよ、大丈夫だよ」といっている自分もなんか悲しくなっていた。

 その女性がどのような生活環境にいるのかはうかがい知れないが、見ず知らずの青年がタオルを貸してくれたり、自転車に乗ったおじさんが救急車を呼んでくれたりと、いざとなればみんなが助けてくれる。

 自殺率の高い宮崎県において、自殺を防ぐ対策が急務となっているが、電話による相談業務だけではなく、一番良いのは、日ごろから助け合うことができる、なんでも話すことができるコミュニティーをどう再構築するかにあるのではないかと思う。

 きれいごとだけでは自殺は減らない。

 自殺をしようとしている人を前にして、私たちはどれくらいのことができるのだろうか。このような現場に立ち会い、正直言って怖かったが、大いに考えさせられる出来事であった。

(記者:大谷 憲史)

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