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2008年08月15日(金) 11時55分

「31歳の誕生日に死のうと思った」格差社会と戦う男性〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 格差社会と言われている。実際、年収1000万円以上稼ぐ人が増える一方、年収200万円以下も確実に増えている。格差自体は昔からあったことなのだろうが、格差を実感している人が多いということが、世の中をぎくしゃくさせているような気がしてならない。

 「挫折を繰り返して、僕は今、派遣で働いています。自分に自信がないから、好きな女性がいても声もかけられない。でも、なんとか人生を立て直したいと思っているんです」

 痛切な声をあげているのは、誠さん(34歳・仮名)だ。本人いわく、「一流とは言えない」が私大を卒業、大手企業に就職した。だが、上司とそりが合わなかった。がんばってがんばって、身体を壊し、4年後に退職した。

 「そのころつきあっていた彼女とも別れました。結婚するつもりだったけど、彼女の親が『定職のない男に娘はやれない』と言い出して。彼女も親を説得できなかった。それからしばらくアルバイトで食いつないでいたんですが、28歳のとき、学生時代の先輩のつてで、ある会社に就職したんです」

 ところが、その会社は1年あまりで倒産してしまう。彼の心にふと、自分は何をやってもダメなのではないかという気持ちが芽生えた。坂道を転がり落ちている感覚に、彼はめげてしまう。

 「何か技術をもっているわけでもない、何ができるわけでもない。一日仕事の肉体労働をしたこともありますが、筋肉痛で3日くらい寝込んでしまった。自分が情けなかった。何もできない自分、というレッテルに押しつぶされそうでした」

 実家は九州だが、大学から上京していた誠さんに、帰る場所はなかった。家は兄が継いでいて、会社員時代に帰省しただけで、兄嫁にうっとうしそうな顔をされた。退職し、結婚するつもりだった彼女と破局したとき、母に泣かれ、それ以来、ほとんど連絡をとっていない。

 「居場所がないんですよ、どこにも。会社が倒産してからは、風呂なしトイレ共同の古いアパートに移って、またアルバイト生活。でも、だんだん虚(むな)しくなってきて、週に3日くらい深夜のバイトをして、あとは部屋に籠(こ)もるような生活をしていました」

 深夜のバイトは、工場の流れ作業だったから、ほとんど誰とも口を利かない。気づいたら、誰ともまともに会話をしない日が1カ月以上続いていたこともあった。

 「31歳の誕生日に死のうと思ったんです。部屋のドアノブにヒモをかけて首をつろうとしたんだけど、古いアパートだからドアノブが取れちゃって。今になると笑えるけど、そのときは死ぬこともできないのか、と呆然(ぼうぜん)としました」

 深夜、ドアノブが壊れる音を聞きつけて、アパートの隣人が彼の自殺未遂に気づいてくれた。その隣人も、いわばフリーターの生活。年齢も誠さんと同世代だった。それまでろくに話したこともなかったが、ふたりは胸襟を開いて語り合う仲になる。

 「わかるんですよ、彼の気持ちが。彼も僕のことをわかってくれた。彼が言うには、『オマエは不運なだけだ。がんばればなんとかなる』と。彼の境遇も、僕から見れば不運なだけ。このままじゃいけない、なんとか浮上しようと話し合いました」

 ところが、実際には、1度ドロップアウトしたら、2度と這(は)い上がれるような世の中ではなかったと彼は言う。30歳を超えた、ろくに職歴のない男には正社員の道は遠い。アルバイトをしながら、正社員への道を模索したが、なかなかうまくいかず、派遣社員として今の会社に入ったのは2年前だ。

 「絶望感はありますけど、負けてなるものかという気持ちも、今はあります。本を読んだり、いろいろなセミナーに出たりして、少しでも自分を磨こうとがんばっているんです。ときどきめげそうになることもあるけど、例の隣人と励まし合いながら、なんとかやっています」

 今の生活から脱出できるのか、どうしたら人生を立て直すことができるのか。具体的な答えは見えてこない。自己啓発セミナーに行ったら、怪しい宗教に勧誘されたこともあるという。キャッチセールスにやたらと声をかけられた時期もあった。

 「気が弱っていると、他人にはわかるんでしょうね。一時期、本当にそういう勧誘が多かった。でも最近、あまり声をかけられなくなったんです。少しは闘志が顔に出てきたのかな、と思っています」

 人生に希望を見いだしてねばり強くがんばるのは、とても大変なことだと思う。だが、こうやってがんばっている人たちに、チャンスが開かれるような社会にならなければ、世の中はますます殺伐としていくに違いない。

 「今、行っている会社に気になる女性がいるんです。まだ話しかけられないけど、彼女に話しかけられる自信をつけたい」

 好きな女性の存在は大きい。願わくは、彼が彼女と話せるようになって、彼女が支えてくれれば、と思う。

(コラムニスト:亀山 早苗)

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