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2008年08月15日(金) 11時08分

読者レビュー◇『NARUTO(ナルト)第43巻』 岸本斉史著オーマイニュース

 本書は週刊少年ジャンプで連載中の忍者アクション漫画の単行本である。木ノ葉隠れの里の忍者・うずまきナルトらの戦いと成長を描く。週刊少年ジャンプの王道を進む作品と言えるが、この巻ではナルトの好敵手・うちはサスケが中心になっている。一族を皆殺しにした実兄・イタチとサスケの戦いに決着がつく。そして、うちは一族の悲劇の歴史やイタチの真意をサスケは知ることになる。

 この真相がすべて説明され、区切りのよいところで単行本は終わる。区切りのよい場面で終わらせるために、この巻ではページ数が大幅に増加している。第42巻の 192ページに対し、この巻は248ページである。それに伴い価格も410円から450円に増加したが、単に雑誌収録分を順々に掲載する以上のコミックスへの思い入れが感じられる。

 『NARUTO』で感心するのは物語の筋運びの巧みさである。本記事では2点指摘する。

 第1にサスケとナルトの対立である。もともと、サスケとナルトは同じ木ノ葉隠れの里の下忍として成長していった仲である。しかしサスケはイタチに復讐(ふくしゅう)するために里を抜ける。これに対し、ナルトたちはサスケを里に連れ戻そうとする。この巻でサスケの復讐には一区切りがつけられたが、真相を知ったサスケは完全にナルトたちと敵対する道を選択する。

 かつての親友と刃を交える展開は多くの作品で使い古されたストーリーである。しかし、親友であるというのは過去の設定であって物語の主軸は現在の対立であり、親友であった状態が長々と描写されることは少ない。

 これに対し、本作品の特徴は作品の中でナルトとサスケが一緒であった時期が長いことにある。第27巻までの第1部の大半をナルトとサスケは共に過ごしている。当初は反発し合い、特にサスケはナルトを歯牙にもかけていなかったものの、戦いや任務を遂行する中で互いに認め合うに至る。それが20巻以上にも渡る、長い作品の中で少しずつ丁寧に描かれた。その過程を読者もゆっくりと読み進めてきたからこそ、ナルトとサスケの戦いの悲劇性をリアルに受け止めることができる。

 第2にイタチ・サスケ兄弟の愛憎である。サスケは一族を皆殺しにしたイタチを深く憎んでいる。しかし、時折出てくるサスケの回想シーンでは優しかったイタチが登場する。ここからは「実はイタチは善人で最後に美しい兄弟愛が見られるのでは?」という予想も成り立った。ところが前巻においてサスケと対峙(たいじ)したイタチはサスケの特殊能力を奪うことが狙いと言い放った。

 結局、兄弟愛あふれる展開は見られずに戦いは結末を迎えるが、この巻で過去の真相が明かされる。それが特定のキャラクターによる説明という形で明らかにされる点が特徴である。伝聞であって、必ずしも真実である保証がない。しかも語り手は謎が多くうさんくさいキャラクターであり、追い詰められて真実を吐いたというシチュエーションからは程遠い状況で語られた。

 従って、再度どんでん返しがある可能性がある。読者にすべての情報が説明されるのではなく、主要キャラクターが認識した以上の情報は与えられない。だから読者もキャラクターと同じ目線で疑問を抱き、考えることになり、感情移入しやすい。いい意味で読者を裏切る筋運びのうまさを評価したい。

集英社
2008年8月4日発売
定価450円(税込み)
248ページ

(記者:林田 力)

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