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2008年08月14日(木) 00時00分

(7)街おこし 差別化がカギ読売新聞


「ネットは地方にとって地理的な格差を埋めてくれる最大の武器」と語る池上さん(7月31日、和歌山県北山村で)

 奈良県と三重県に囲まれた全国唯一の飛び地の村、人口520人の和歌山県北山村には、「ネット村民」が7500人近くもいる。

 ネット村民は、北山村が2007年6月に開設した地域ブログのポータル(玄関)サイト「村ぶろ」の登録者のことだ。紀州熊野地域にあり、森林面積が97%を占める村は、高齢化に歯止めがかからない。

 そんな過疎のイメージを逆手に取り、田舎暮らしに興味を持つ人にも楽しめるブログを目指したところ、今ではネット村民の6割が北海道や九州など地域外の在住者となった。梅干し好きが集まるサークルや熊野古道の写真コンテストなどが人気を集める。

 「村ぶろ」にはもう一つの狙いがある。村特産の柑橘(かんきつ)類「じゃばら」の直販サイトへの誘客だ。8年前からインターネット上の仮想商店街に出店し、一時は売上高2億円を超えた。ネット販売は売り上げの4分の1程度だが、迷惑メールが激増したここ数年は、広告メールを配信しても読んでもらえず、07年は1億7000万円にとどまった。

 村観光産業課の池上輝幸さん(36)は「村が運営する登録制サイトなら安心感がある。口コミでじゃばらを広めてほしい」と、月に150人ほど増え続けるネット村民に期待を寄せる。

 静岡県河津町の宿「つりばし荘」に07年、150人を超える外国人宿泊客が訪れた。「伊豆の踊子」の舞台となった河津七滝(ななだる)の近くにあるが、3年前はゼロ。急増したのは、日本への旅行を計画する外国人が頻繁にアクセスするポータルサイトに、宿の情報を登録したのがきっかけだ。

 ネットによる情報発信は今や、「集客」に欠かせない。もっとも、ネットで発信するだけで、人を呼び込めるとは限らない。

 「更新頻度が少なかったり、情報の整理が不十分だったり、利用者の目を引く工夫が足りないサイトも多い」。国立情報学研究所の新井紀子教授が指摘する。

 縄文杉で知られる鹿児島県・屋久島。年間30万人が訪れるこの島も、ネットへの対応は遅れていた。

 07年10月の合併で屋久島町が誕生したのを機に、08年3月から町のサイトを刷新した。それまでのサイトは、月1回発行される広報誌の内容が中心で、アクセス数は月6000件程度。ところが、刷新後は、月5万件近くに急伸した。

 フェリーの欠航やイベントの中止など、これまで防災行政無線でしか伝わらなかった情報が、サイトで即時に更新されるようになった。屋久島では09年7月、国内で46年ぶりに皆既日食が見られるが、観光客の関心の高さを見込んで、早くも観測できる地点や時刻などの掲載を始めた。

 町企画調整課の永野忍さん(37)は「必要な情報、価値ある情報とは何かを考えながら発信することが、住民サービスの向上にもつながる」と話す。

 自治体などがこぞって手掛けるネットによる街おこしだが、競合相手も多い。ターゲットを明確にしながら、差別化を図る知恵がなければ、地域の魅力を伝える発信力は期待できない。(おわり)

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080814nt01.htm