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2008年08月13日(水) 09時20分

低賃金で激務 利用者にしわ寄せも… 悪化する介護労働の現場産経新聞

 介護現場の労働環境が悪化している。厚生労働省所管の財団法人「介護労働安定センター」の調査で、介護労働者の半数が「低賃金」と回答。5人に1人が1年間で職場を去っているという。こうした職場環境のしわ寄せが、事故の危険や衛生面の悪化という形で施設利用者に波及することが懸念される。(社会部 荒井敬介)

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 調査は昨年11〜12月、全国の介護事業所とそこで勤務する介護労働者を対象に実施。4783事業所と1万3089人が回答した。

 介護労働者の平均月収は17万9000円。平均時間給は1044円で、49.4%が「仕事内容の割に低賃金」と回答した。労働条件で悩みや不安が「ない」と答えたのはわずか7%だ。

 介護自体が重労働なのに加え、介護サービス利用者からの暴言も5人に1人は経験、1割はセクハラ(性的嫌がらせ)や暴力を受けているという。

 半数が「働き続けられる限り勤めたい」と前向きな姿勢を示している一方で、1年間で辞めた職員の割合を示す離職率は21.6%。全産業平均の16.2%と比べ5ポイント以上高く、働きがいはあるものの、継続困難と考える職員も多い実態が浮かび上がる。

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 「介護用ゴム手袋は施設の備品ではなく、職員に自費購入させていた」。都内の介護付き老人ホームに勤務していた元職員はこう証言する。施設側の経費節減により、介護職員に負担を強いるケースがあるのだ。

 感染症予防のため、おむつ交換の際には手袋は1回ごとに使い捨てることが望ましいが、都内のこの施設では、職員が自分の出費を抑えるため1枚の手袋で複数のおむつ交換をしているほか、おむつを換えた手袋のまま高齢者の口腔(こうくう)ケアなども実施していた。

 介護職員も極端に少なかったため、週2回の入浴が10日に1回程度と少なく、入浴もストレッチャーに乗せてシャワーで済ませていた。職員不足を補うため、緊急時にしか認められていない認知症高齢者の身体拘束を日常的に実施していたとして都は昨年、この施設に業務改善命令を出した。

 介護労働安定センターの調査でも、重大事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」の経験は51.8%が「あった」と回答。とりわけ入所型施設の職員は4人に3人が経験していた。いずれも職員不足によるところが大きいとみられる。

 国からの介護報酬が少ないため、介護事業所が労働者の給与を抑制。離職率が増加し就職希望者が減少するという悪循環に陥っている。NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の牧野史子理事長は「排泄(はいせつ)や入浴などの作業について、社会全体の評価が低い。キャリアアップ制を導入したり報酬を上げるなどモチベーションを保たせる対策を取らないと担い手はますます減少する」と介護業界の空洞化を懸念している。

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