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2008年08月09日(土) 10時00分

【トレンド】歴代1位も見えた『ダークナイト』がケタ外れのヒットを生んでいる理由とは?nikkei TRENDYnet

 アメリカン・コミックのヒーロー、バットマンの活躍を描く人気シリーズの最新作『ダークナイト』が全米で、驚異的なペースでヒットを続けている。

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 7月18日に公開されるや、オープニング週末の記録を塗り替える1億5000万ドル(約160億円)の興行収入を計上。3億ドル到達も『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』が樹立した16日の記録を破り、10日目で達成。4億ドル突破も『シュレック2』の43日目の記録を大幅に短縮し、18日目で成し遂げてしまった。

 この時点ですでに北米の歴代興行収入8位に位置しており、2位の『スター・ウォーズ』(約500億円)を抜くのは時間の問題。1位の『タイタニック』(約650億円)にどこまで迫れるか注目されている。

 『バットマン』シリーズは全米で根強いに人気があり、今回も前作『バットマン・ビギンズ』級の成績(約2億ドル)は期待されていた。米国では、コミック・ヒーロー映画が強いとはいえ、女性客を取り込みにくいジャンルなのも事実。なぜここまでケタ外れのヒットとなったのだろうか。

 その極めて重要な理由が、批評やレビューにおける尋常ではない評価の高さだ。全米のメディアに出たレビューは、いずれも高評価で、アカデミー賞への期待を匂わせるものもあった。

 また、有名な映画データベースサイト「The Internet Movie Database(通称IMDb)」の一般ファンによる投票でも、公開初日は10点満点中9.8点という驚異的な評価を獲得。8月に入り、このポイントは9.3まで下がったものの、それでも『ショーシャンクの空に』や『ゴッドファーザー』などの名だたる作品を上回り、歴代1位の座を占めている。

 米YAHOO!  MOVIESのサイトでのファン投票も、Aランクをキープし続けており、口コミで作品のクオリティーが広まったのは疑いのないところ。また、一度見た観客が繰り返し足を運ぶリピーター現象も起きているという。

 確かに『ダークナイト』は、これまでのアメコミ・ムービーとは一線を画する作品だ。

 ゴッサム・シティの治安を守るために日夜戦い続けるヒーロー、バットマンの前に、ジョーカーという悪党が現われる。この悪役は1989年の『バットマン』で一度登場しており、名優ジャック・ニコルソンが怪演を見せて話題を呼んだが、今回のジョーカーはこれとは別物。悪事を働く理由は復讐心に突き動かされているわけでもなければ、金や権力を手に入れるためでもない。ただ、世界が滅亡に向かってゆくさまを見たいだけなのだ。これは現代にはびこる“動機なき犯罪”の象徴のようにもみえる。日本でもしばし起こる、愉快犯の姿が見えてくるようだ。

 さらにジョーカーは、善の側にいる人間でもあっさり悪の側に変わることを証明しようとし、バットマン・サイドにいると思われた正義漢の強い検事を陥れようとする。このドラマも見応えがあり、人間が誰でも悪の側に転がる可能性があることを訴える。言わばジョーカーは揺るぎない“悪”であり、バットマンはその前に大苦戦するのである。

 そこには正義のヒーローが悪党をやっつける爽快なカタルシスはない。善と悪の複雑な関係がくっきりと浮かび上がる重厚さ。そういう意味でも、従来のアメコミ映画とはまったく異なる作品なのだ。

 ジョーカーを演じたヒース・レジャーは『ブロークバック・マウンテン』などで知られる若手演技派俳優だったが、撮影直後に世を去った。この出来事も含めてジョーカーには注目が集まっていたが、期待にたがわぬ熱演に全米のメディアは賞賛の声を寄せ、早くもアカデミー賞候補の呼び声も高まっている。

 日本では8月9日より劇場公開されるが、全米でのブームは日本にも飛び火するだろうか。日本におけるアメコミ映画の興行成績は、本国ほどのブームにいたらぬケースが多く、とりわけ『バットマン』シリーズはそれが顕著である。

 今回の『ダークナイト』も決して楽観できないが、クオリティーの高さがアピールできれば、今までとは違う展開も期待できるだろう。

(文/相馬学)

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