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2008年08月07日(木) 15時01分

<北京五輪>生き延びられるか不安だった…イラク選手、万感毎日新聞

 【北京・和田浩明】「次の五輪まで生き延びられるか不安だった。参加は何よりうれしい」。北京五輪の女子陸上イラク代表、ダナ・フセイン・アブドルラザクさん(22)は6日、選手村で念願がかなった喜びを語った。国際オリンピック委員会(IOC)が7月、イラク五輪委員会を一時資格停止処分にしたことで、絶望視されていた出場。フセイン独裁政権時代から03年のイラク戦争と、渦巻く暴力の中で続けた練習の成果を世界に示す機会がようやく訪れた。

 IOCは7月23日、イラク政府がイラク五輪委人事に介入しているとして処分を決めた。バグダッドで一報を受けたダナさんは「五輪に行けないと思うと、衝撃のあまり大泣きして、食事ものどを通らなかった」と話す。

 だが、IOCは同30日、「イラク五輪委を、政府から独立したものとすること」などの条件付きで処分を解除した。代表選手7人のうち4人が出場できることになった。「子供のように飛び上がって喜んだ。参加するからには優勝を目指す」

 バグダッドからは3日間をかけ、4日深夜に北京に着いた。日本メーカーのシューズを持参したが、ドバイでの乗り継ぎで紛失した。報道で知った米国人が寄付してくれたシューズで練習と本番に臨む。

 子供のころから、かけっこが好きだった。15歳の時、中学校の百、二百、四百メートル走ですべて1位になった。そこで才能を見出され、訓練を受け始めた。

 しかし、旧政権時代はフセイン元大統領の息子ウダイ氏(03年の米軍作戦で殺害)がイラク五輪委会長を務め、スポーツ選手に対し虐待や拷問をしていたとされる。「娘が目立つのを恐れた父は、競技への参加を許してくれなかった」とダナさんは言う。

 03年のフセイン政権崩壊後、競技に本格的に参加し、頭角を現した。二百メートル走の女子イラク記録24秒82はダナさんのものだ。しかし、現在も米軍と武装勢力の衝突は続く。身代金目的で誘拐された友人もいた。身の危険を感じながら、高価な用具の入手もままならないまま練習を続ける。

 それでも母国の治安は、安定に向かいつつあるように感じる。「すべての国民が安全に暮らせる日が早く来てほしい」と祈る。「五輪に参加する以上は優勝を目指します」と語る顔には静かな決意がみなぎっていた。

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