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2008年08月06日(水) 13時43分

ため池で夏の風物詩“ゆる抜き”オーマイニュース

 中世ヨーロッパの古城を偲ばせる偉容と風格を漂わせる、石積式のアーチダムから流れる水は一服の涼をもたらしました。

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 香川県観音寺市大野原町にある、豊稔池(ほうねんいけ)ダムで、7月28日、『ゆる抜き』が行われました。

 ゆる抜きの「ゆる」とは、取水栓を意味します。

 ため池の多さでは全国一の香川県。初夏から夏にかけて雨の少ない時期に、灌漑(農業用水を供給する)用に行っている古くからの伝統祭事です。

 県内では、この豊稔池のほか、毎年6月13日に行われる弘法大師が作ったとされる満濃池(仲多度郡まんのう町)も有名です。

 ただ、豊稔池では下流の井関池の水量が3割をめどに年に1、2回ダムのハンドルを緩めて放流しているため、期日は7月中旬から8月初旬にかけてと定まっていませんが、ダムから飛沫を上げて流れる水のシーンは西讃地方の夏の風物詩としてすっかりおなじみとなっています。

  7月4日の梅雨明け以降、曇りからぱらっと降った日もあったとはいえ、雨の降らない日が続いているため、例年より10日ほど早い初放流となりました。地元の豊稔池土地改良区の関係者によって、「ゆる」が緩められ、堤高30.4メートルの堰堤からゴォーと唸りながら流れていきました。

 今年は冬から春にかけて、雨が多く豊稔池の貯水量が満水状態で一度緩めたとのことです。梅雨の間もほぼ平年並みの降水量でそれを持続してのこととなりました。近年、ダムをバックに整備された豊稔池遊水公園から眺望していた、たくさんの見物者は暑気払いゆえ、水の流れにしばし“涼”を求めていました。

 豊稔池ダムは、灌漑用として1926(大正15)年起工、1929(昭和4)年に竣工した国内最古の石積式ダムです。

 当時、ダム建築の最新技術であるマルチプルアーチ構造を採用、当時として堰堤の技術が優秀であることや歴史的価値が高いことから、1997年9月に国指定の登録有形文化財(建造物)、 2006年12月に重要文化財に指定されています(登録有形文化財は抹消)。

 池の貯水量は159万立法メートルで、29日までに約40万立方メートルを放流、観音寺市内を流れる柞田(くにた)川以西の旧大野原町エリアの田畑(約 530ヘクタール)に水を潤しています。ゆる抜きを終えて、農作業はもう一踏ん張り、終盤へと向かっている西讃地方です。

■気になる水の状況

 さて、水と言えば灌漑用だけではなく、ライフラインの水も欠かせません。

 近年、夏になれば渇水との闘いを強いられる香川県。上述の通り、今年は冬から春にかけての雨が多かったため、水瓶である高知県の早明浦ダムは満水状態が続き、しかも5月28日の梅雨入り後、長梅雨となって今夏は何とか乗り切るものだろう。

 ところが、梅雨明けが7月4日と平年より早く、観測開始以来でも6番目の早さ。雲行きが怪しいと察知していましたが、やはり案の定となりました。

 梅雨明け後、日照り続きで徐々に減っていき、四国地方整備局は7月25日から供給量を20%削減する第1次取水宣言を実施しています。8月1日0時現在、貯水率がとうとう50%を切ってしまいました。

 節水に取り組まなければなりませんが、その対策も県民に浸透しています。とはいえ、これから夏になるたびに水との闘いを強いられるのでしょうか。

 「石油の20世紀から、21世紀は水を巡る世紀」と危機を唱える専門家もいらっしゃいます。戦争にならないためにも、きちんとした水対策を行政に願いたいです。

(記者:笠井 隆宏)

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