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2008年08月06日(水) 13時38分

横浜で見た野育ちの伝統芸「里神楽」オーマイニュース

 盛夏の到来を告げる横浜の「本牧お馬流し」の季節がやってきた。

 中区本牧地区最大のイベントで、土曜・日曜の2日間、御輿や盆踊りなどいくつものイベントが多発的に行われる。今年は8月2日と3日に行われた。

 この祭りのハイライトは穢(けが)れを封じた藁のご神体を海に流す「お馬流し」(神奈川県無形民俗文化財指定)だ。400年の伝統を持つ「奇祭」と称され、さまざまな方がブログなどでレポートしている。

 しかしこの祭りには隠れた見所がある。そこをレポートしたい。

  ◇

 その見所とは、中夜祭として行われる神社の奉納芸「里神楽」である。

 演者は東京都稲城市の「山本頼信社中(国指定重要無形民俗文化財)」で、5年前から招かれている。

 この日の主演目は神主の「お祓いの起源」。「祓いたまえ〜、清めたまえ〜」というあれである。あのいわれを舞踊劇仕立てで演じるのだ。

 登場人物は5人ほどだったが、そのすべてが神々という演目は、かなりめずらしいのではないか。しかも舞方は現役の神主だという。奉納芸の面目躍如である。

 里神楽は初見で、実は存在すら知らなかった。中高生のころ、「芸術鑑賞」と称する授業で、歌舞伎や能を見た記憶はある。だが、野育ちの伝統芸を見るのは初めての経験である。

 舞台は特設ステージだが、つくりは能舞台にそっくり。背景は松の絵でちゃんと橋懸かりもある。演じ手も能楽師のような衣装で、面をつけている。

 そういうわけで「神楽」というより「能」に近い。ただ動きが能よりも大げさでテンポも良く、すり足もそれほど使わないなど、ずっと砕けた感じがした。

 歌舞伎に対する里歌舞伎、新劇に対する大衆演劇のようなものだろうか。

 主演目のほかに「恵比寿様が大黒様をお招きするお目出たい席の話」などの演し物があり、上演時間は2時間半ほどだった。

 本牧神社は「本牧和田山」という小高い丘の中腹にあり、裏手は和田山の森という絶好のロケーションである。

 森を背にすることで、非常な奥深さと非日常感が伝わってくる。神話を扱う芸能として申し分ない条件だったと思う。神社の境内での観劇も新鮮だ。

 本来の里神楽は黙劇でせりふや謡いはないらしいのだが、この日は家元の山本頼信氏がずっと解説をしていたため、とても分かりやすかった。おかげで気軽に舞台を楽しむことが出来た。

 残念だったのは、国指定の無形文化財なのに、見物客が少なかったことだ。せいぜい35人くらいだったろうか。

 一方、神社のまえにある芝生の広場は盆踊りの真っ最中で、「マツケンサンバ」や「WAになっておどろう」でかなりのにぎわいをみせていた。屋台の綿飴やお好み焼き屋の前にも行列が出来てたのに比べると、神楽見物の方は少々さびしい状態だった。

 里神楽は継承者がすくなくなり、都内で伝承されているのは四社中のみという。しかも江戸時代からつづいている直系はこの山本家だけだそうだ。

 稲城、府中、川崎、大和、町田、三鷹、八王子の各市内や中野、世田谷区内、多摩川流域の約40カ所の神社祭礼に出向いて表演しているそうだが、これは各地域が地元の人材で奉納芸を執り行えないことの裏返しであろう。山本社中の芸は素晴らしいのだが、少し複雑な心境である。

 里神楽の奉納は来週以降も続く。是非、あなたもお近くの境内で実際に体験してほしい。

(記者:檀原 照和)

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