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2008年08月06日(水) 10時41分

ラブホテルから芸能人の自宅まで グーグル「ストリートビュー」産経新聞

 ネット検索最大手の米Google(グーグル)社が提供しているオンライン地図サービス「Google マップ」日本版に、話題の「Street View(ストリートビュー)」機能が追加された。同社が事前に撮影した東京、大阪、仙台、札幌など12都市について、画面のパノラマ写真を360度回転操作しながら、文字どおり街路を歩いて風景を楽しむ感覚の“仮想散歩”機能である。米国では昨年5月サービスが開始されたが、偶然写り込んだ人物のプライバシーについて問題視された。今回の日本版では、米国に比べ特殊な社会構造を背景に、いわゆる身元調査や警察・選挙運動に悪用される恐れがある。(立川優)
■ラブホテルから芸能人の自宅まで
 ストリートビュー機能の使い方は簡単だ。住所や店舗名などキーワードで地図を検索した場合に表示される「ストリートビュー」ボタンをクリック、青い表示の道路上に登場の人形アイコンを押すだけだ。一般的には、遠く離れた故郷の街並みを楽しんだり、旅行や商談の下準備として見知らぬ街角をチェックする、といった使われ方をされるだろう。
 ただ、ネット掲示板などは、ストリートビューが写し出す風景について「面白い場面」だけを拾い出そう、との書き込みで盛り上がっている。例えば、別れた恋人との思い出の地▽登下校する小学生女児の無邪気な笑顔▽平将門の首らしきものが高層ビル群に浮かぶ様子▽ボヤを起こし、消防に鎮火された直後の店舗−など、ちょっとした話題性のものから、ラブホテルに入る瞬間の男女▽立小便をしている後ろ姿の男性▽交通事故直後の道路上で、警察官から事情聴取を受ける姿−といった深刻な場面まで、数多く見つけ出されている。
 もちろん、これらの「面白い場面」をグーグル社が故意に撮影したわけではない。同社はあくまで、誰もが目にできる公共の風景をネット上に再現しただけ、とのスタンスで、これらの場面も公道を走る専用車から流し撮りした際たまたま写り込んだものという。ただ、プライバシー侵害の批判を避けるため、個人の顔や車のナンバープレートなどに画像ボカシ処理を行い、加えて、不適切と感じたユーザーが直接、改善点などを“通報”できるシステムにしている。
 だが実際には、店先や電柱に貼られたポスターの電話番号がそのままだったり、テラス越しに個人宅の居間が“丸見え”だったりするなど、サービス開始直後とはいえ、無限と呼べる数の画像を今後、個別にどこまで加工できるのか疑問もある。中には、帰宅時に玄関の呼び鈴を押す小学生らしき姿の画像もあったが、逆に言えば、この家の家族構成をグーグル社が暴いたともいえ、児童をめぐる凶悪事件の多発する現代社会では、注意が必要かもしれない。
 すでにネット上には、「大事件の容疑者の自宅住所を求む」「芸能人の家とか、誰か晒(さら)して」といった“恒例の要望”が次々と寄せられている。もちろん、冷静な議論も行われており、「一般人の家なんて誰も興味ない(から実際は安心)」「自意識過剰な奴が随分と多い」といった意外な視点、そして「プライバシー侵害で訴訟の場合、グーグルが悪いのか? それとも見つけてネットに晒した奴が悪いのか?」といった意見まで噴出している。
■身元調査、車庫証明にも?
 注目すべき書き込みに、「ネットオークション相手の家を、実際に確認できて便利だ」というのがあった。この視点が、ストリートビュー日本版のすべてを象徴しているかもしれない。見知らぬ相手の“素性”を知るため、誰もが住所から実態を調べたいだろう、という次第だ。
 実際、米国に比べ“ウサギ小屋”と評される日本では、隣接した道路から家屋の様子について一目瞭然のことが多く、「豪邸か“あばら屋”か」という外観だけでなく、洗濯物や自家用車の有無、グレードなど、個人の生活水準を示す情報が、ストリートビューによって丸裸になってしまう。
 この情報が、就職や不動産購入・賃貸契約の際に悪用されたら、どうなるだろうか。
 実家や保証人の住所からストリートビュー上で“現場確認”したところ、「この
人の実家は、意外とボロだな…」「分譲マンションと言っていたが、賃貸の公営団地のようだな…」などと、本人の知らぬ間に、外見だけで査定されている恐れがある。
 身元調査といえば昨春、「B地区にようこそ!」閉鎖騒動が起きた。いわゆる“被差別部落”と呼ばれる旧同和地区を地名入り写真で紹介したサイトが、部落解放同盟の県支部の告発で削除されたのだが、この件は氷山の一角で、ネット上には今も“地名入り部落リスト”の類が数多く残っている。
 ところが今回のストリートビューは、こういった“騒動”を水面下に押しやる危険性をはらんでいる。従来であれば、まさにグーグルの得意とする文字検索で引っかかるため、上記のように“通報”で消去されることも多いが、ストリートビューの場合、アドレスのコピーの手間だけだ。旧同和地区のアドレスを添付し一言、「ここって、アレ?」との書き込みがすでにあった。特にネット上では、15兆円ともいわれる同和対策事業や部落解放同盟幹部の不祥事について批判的意見が多いことから、“部落アドレス”が蔓延(まんえん)する恐れもある。
 もちろん、差別問題に発展しないまでも、安易な利用も考えられる。例えば警察が車庫証明書類の(念のための)確認用に▽特定政党のアドレスをメール、事実上の選挙運動−など、キリがなさそうだ。
 ストリートビューの対象は現在、都市圏の主要道路だけだが、グーグル側では今後、小さな道路も撮影していく方針というから、プライバシー侵害に関する議論は、ますます高まることだろう。

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