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2008年08月05日(火) 10時03分

ソーシャルブックマークの可能性を考えようjapan.internet.com

20年前、「辛口 Jazz ノート」(日本文芸社:1987年10月)という書籍が出版された。著者の寺島靖国氏の明快な論評は、賛否両論あるものの、Jazz の書籍としては異例の売上を記録した。

書籍の中身は、寺島氏がお勧めする(一部はお勧めしないものも敢えて紹介されている)Jazz レコードごとの解説文、つまりライナーノーツをまとめたような本である。見方を変えればレコードのタイトルやジャケットを URL の代わりのキーとして、思いを込めたコメントを追記したブックマーク群を書籍化したようなものである。

当時、私は Jazz に興味を持ち始め、暇さえあれは書籍で紹介された CD を買い足していったものだ。この本を読み、紹介された曲を聴くと、経験や知識だけでなく、著者の思いや主張も伝わってくる。そして私自身にも、この本とそれによってもたらされた経験を通じて、Jazz に対する一般的な知識体系(コモンナレッジ)のようなものが構築されていった。

見識を持った人が勧めるものを拠り所にすることは、その対象物を理解するプロセスで極めて効率的である。おいしいお店を紹介するグルメ雑誌、これから上昇しそうな銘柄を紹介する投資情報サービス、競馬の予想屋など、様々なテーマを軸に公知となっている情報に対しての見識・見解に対価を支払う事例には困らない。

Web 上のコンテンツが充実している今日、ある分野で定見を持つ人が、ソーシャルブックマークを活用して同様の情報提供サービスが可能である。そのうち、ソーシャルブックマーク自体にお金を払うケースも生まれてくるのではないだろうか?今回は、そんなソーシャルブックマークの業務適用を考えてみたい。

はてなブックマークでは、ブックマークの使い方を3種類に分類して機能・用途を説明している。

1.「保存と検索」情報整理の便利ツール
サーバーサイドでブックマーク管理することで、操作する端末に依存しないで、再度アクセスするであろうページを保存しておくことに使うことを提案している。特に自宅 PC、会社 PC、携帯端末など複数の端末で Web にアクセスすることがあるユーザーには便利である。

2.「発見」旬な話題が見つかる情報メディア
まさにブックマークを共有している人数を様々なジャンルでランキング表示することで、旬なページを見つけだすことができる。はてなブックマークでは、ニュース記事が上位にランキングされていることが多く、旬なニュースを抑えるには大変便利である。

またコメントを読むことで、ニュースの多面的な見方を発見できてなかなか勉強になる。集合知を利用して有益なコンテンツを浮かび上がらせる典型的な事例ともいえる。

3.「共有」ブックマークでつながるコミュニティ 
登録したブックマークを公開し合い、ブックマークに対応したコメントを読むことで、その人の関心事や考え方などを把握できる。自己紹介における趣味や愛読書に近い性質のものかと思う。

これらのことから、単にソーシャルブックマークといっても、登録される意図が異なるものが混在している実態が浮かび上がる。

・「登録者本人の利便性を高める」ためのブックマーク
・「メンバーにお勧め(リコメンド)する」ためのブックマーク
・「登録者をほかのメンバーにアピールする」ためのブックマーク

の3種類は少なくとも分類できそうだ。もちろん、読み手にも登録した人の意図をくみ取るスキルが必要であるが、登録時に最低限の約束事を用意することで、格段に有効性が高まると考える。

たとえば「メンバーにお勧めする」ブックマークを登録するときは、読み手への配慮があるとよい。「オススメ」タグを事前に用意しておき、必ず登録する。「競合動向の把握にオススメ」、「技術習得にオススメ」などのタグをメンバー間で統一して使用することで、目的にあったブックマークを絞り込むことが可能になる。

同時に、ブックマークした理由をコメントすることを徹底することで、登録した意図を把握してからリンクをたどることができ、より効率的な活用が可能になる。

もっと重要な課題が、登録の動機付けである。理想的には、みんなに知っておいてもらいたいことを「善意」で登録する企業文化を築き上げることであるが、現実的にはなかなか難しい。機能としては、ブックマークに対して、ほかのメンバーが共有したり、評価やコメント追記することで双方性を生み出し、利用機会を増やすことで「役立っている」ことを見せる仕組みが必要だ。

さらに、これらのアウトプットを報酬制度など「評価」制度に組み込んだり、特定のプロジェクトで、気になったコンテンツを見つけたらブックマークすることを「約束事」として定着させるといった施策も考えられる。

そして、これらに増して、この人の登録したブックマークを見てみたいと思わしめる「この人」を作り出すことが大切である。ソーシャルブックマークは、誰が、どういう意図で、どんな時期に登録したかというバックグラウンドに注意しながら利用することで、各段に価値が高まる。

あるテーマに造詣の深い人が登録しているブックマークやコメントをチェックすれば、きっと劇的に効率的な情報探索が可能になるはずである。ブックマークの可能性を理解するメンバーを増やすことが最も効果的な「登録の動機付け」になるに違いない。

また、各人がブックマークを整理しながらコメントを充実させれば、前述のようなコモンナレッジを創造するに役立つブックマーク群を形成できる。ソーシャルブックマークは運用次第で、ニュースページの紹介リストにも、企業における知識体系構築の基盤にも変化する。

【当コラム執筆は、Looops Communications 取締役副社長の福田浩至が担当しています】
記事提供:株式会社 Looops Communications(ループス・コミュニケーションズ)

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