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2008年08月05日(火) 12時18分

ラサの聖火リレーをこの目で見てきた!(下)オーマイニュース

 聖火リレーまで強制退去させられることなく、無事にラサに滞在することはできた。ただ、徹底的な監視下で全く自由に動けなかったことも事実。

 そこで、ラサ郊外のお寺に足を伸ばしてみた。

 最初に行ったのは、デプン寺。

 市内からバスで30分も走れば着くゲルク派の大きなお寺で、観光客も多く訪れるところ。

 私も過去に何度も訪問して、お坊さんと会話したり、写真を撮ったりと楽しい時間を過ごした思い出のある場所。

 参道を登っていると、上からチベット人おばあさんが下りてきた。

 「上に公安がいるから行かないほうがいいよ」

 聞くと、3月の暴動以来デプン寺は外部との接触を完全に断たれているという。お坊さんも閉じ込めた状態で、中では愛国教育が行われているという。

 とりあえず検問所までは行ってみる。

 狭い道に似つかわしくない、かなり厳重な検問。自動小銃も構えている。

 そこで話を聞いても同じだった。とにかく今は入れない。明日も明後日も無理。いつになるかは分からない。

 検問所を離れて、近所のチベタンと話をする。

 3月以降、中にいたお坊さんは監禁されて、武器を持った人民解放軍もたくさんデプンに入っているという。そういう話をしているそばから、人民解放軍の車が参道を登っていく。

 「中国人は良くねぇ」

 彼らは、その車を睨みつけながらチベット語で呟いた。

 あまり長居をしていては彼らにも迷惑がかかる。参道には警察学校もあるので、デプンを離れた。

 聖火リレー前後のラサは珍しく天気が悪かった。濃い青色の美しい空はなかなか顔を出してくれない。

 バスの窓から遠くデプンを眺める。うしろの山には鉛色の空がのしかかっている。

 「あそこは、今1番中国政府が見せたくないもののひとつ。中で何が行われているのか」

 そう考えただけで背筋が寒くなった。暴行もされているだろうし、死者も出ていると思う。

 ただ、自動小銃を構えた検問は突破できない。

 顔見知りのお坊さんが心配になる。どうすれば彼らの力になれるのか。不甲斐ない自分が悔しかった。

 デプン寺の帰り、同じく郊外のセラ寺にも行ってみた。

 常時1000人以上が修行をしているお寺で、問答修行などは観光客にも人気が高い。

 セラ寺は中に入ることができた。ただ、参拝客にチベット人は少ない。ほとんどが中国人観光客。ご想像通り、騒ぎ倒している。

 当時のラサではデプン寺以外は参拝できた。しかし、どのお寺にも共通することは、お坊さんの数が激減しているということ。

 セラは3時間ちょっと滞在したけれど、会ったお坊さんは片手で足りるほど。お坊さんで溢れかえって、好奇心旺盛な少年僧とチベット語で会話をしたり、写真を撮ったりして遊ぶという昔のセラ寺の面影はなかった。

 セラ寺の周りには収容所が点在している。当然近づくことなどできないので、セラ寺から眺める。あそこか、もしくはもっと郊外の収容所なのか。

 眺めていると、1人のチベタンが話しかけてきた。

 「あそこにはいない。生きている連中はもっと遠くに運ばれた。今ごろどうなってしまっているのか」

 2人とも涙が止まらなかった。このお寺には若い修行僧もたくさんいた。さぞかし不安だろう。不憫でならない。

 もうすぐ結局何事もなかったかのように五輪は始まる。

 ラサの人たちは絶望しかけている。仏教を中心に、伝統を守って幸せに暮らすという希望を失いかけている。

 しばし熱狂したあと、やっぱり世界はチベットを忘れるのだろうか? それは、あまりにも義がなさすぎではないだろうか。

(記者:片 一也)

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