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2008年08月05日(火) 11時57分

ラサの聖火リレーをこの目で見てきた!(中)オーマイニュース

 町なかで配られている新聞には明日の聖火リレーの詳細が書かれていた。

 どうやら交通規制が敷かれるらしい。詳しく見ると、ポタラ宮を中心に旧市街はすっぽりと交通規制対象内。私の宿泊していた宿もその中に入っている。

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 明日は宿から外に出られるのかどうかも不安になってきた。

 町の市場では昨日と違い、たくさんの買い物客が食材を買い込んでいた。みんな同じ不安を抱えているということ。

 3月の暴動後、しばらく外出禁止令が出たけれども、明日もしかしたら何か起こるかも知れないと、チベット人たちは口に出さないけれど心配している。

 私も最悪に事態に備えて、水とビスケットとたばこを買って、明日に備えて早めに寝た。

 朝6時前。目覚ましが鳴るよりも早く目が覚める。

 顔を洗い歯を磨き、カメラを持って表に出てみた。門は開き、外にでることができた。

 異様に静かである。宿の前の道は車が走っていない。すでに交通規制が敷かれている。遠くの交差点には人民解放軍の車両が検問を作って入れないようにしている。

 私の存在に気づいているが、特に注意してくる様子もない。とりあえずリレーが行われるポタラ宮まで歩いてみる。途中何人も公安とすれ違う。普段よりも明らかに人数が多い。

 もうすぐ遠くにポタラ宮が見えるというところで、またしても検問があった。今回はかなり厳重で人民解放軍も小銃を構えている。

 チベット語で話しても中国語で話しても中には入れない。同じ宿の中国人旅行者が話しても結果は同じ。

 しばらく検問所の前でたむろしていると、大きな観光バスが何台も現れた。中から若いチベット人男女が数百人は出てきた。みんなチュパ(チベットの伝統的衣装)を着て、胸からIDカードのようなものを下げている。

 それぞれ検問所の人民解放軍にチェックを受けて順番に検問の中に入っていく。そう、彼らは聖火リレーの沿道で応援するサクラということ。

 事前に当局が許可あるいは指令をした人間のみが、あの柵の中に入って聖火リレーを応援できるということ。ちなみに私が見た若い男女は西蔵大学の学生たちだという。

 検問所の外には私と同じく中に入ることができない人間だけがたむろしていた。そして、私以外は全員中国人。彼らはこの光景を見て何を感じているんだろうか。自分の母国が、自国民すらも立ち入らせず、徹底的に管理された聖火リレーが行わうとしている。

 しかし、同じ宿の中国人青年も「入れなかったね。残念、残念。まぁ帰ってテレビでも見よう」と、実にあっけらかんとした様子。不思議である。

 さて、仕方がないので部屋に戻り聖火リレーの様子をチェックする。

 聖火は、ダライラマ法王の夏の宮殿であるノルブリンカをスタート地点にしていた。このままポタラ宮を目指すということだろう。

 オープニングセレモニーで挨拶がされた。まず最初、四川地震の犠牲者に対する黙祷が行われた。

 これには正直驚いた。中国共産党はこのラサの地で、今回の地震犠牲者をはるかに上回る数のチベット人を射殺した。これは歴史的事実で、周りにいくら嘘をついても、ここラサにいるチベット人は知っている。どんな神経をして「黙祷!」と叫べるのか。

 番組は、所々でVTRを入れながら、あまり生放送を長く流さないかたちで進んでいく。都合の悪いことが起こることを心配しているのだろうか。

 テレビではチベット人と漢民族が代わる代わる聖火をリレーしている様子を映している。沿道には私が見た以外の検問所から入ったのであろうおびただしい数のサクラ応援団。同じTシャツに同じ旗を持って叫んでいる。どうもあの国の様子とかぶってしまう。

 そして、聖火はゴール地点であるポタラ宮は到着した。

 ここでエベレストを登頂した聖火と合流をして、セレモニーが行われた。

 チベット人による舞踊が行われた。窓からはポタラ宮の前の広場で叩いている太鼓の音が聞こえる。本当にすぐそこで行われているのに、絶対に生で見ることができないということを痛感した。

 最後にスピーチがあった。ここでもやはり失言が。

 「ダライ一派の破壊活動があったけれども、(中略)偉大なる胡錦涛首席のお陰でこうしてイベントを成功させることができました」

 もう中国の魂胆は丸見えなのに、なぜこのイベントを止めることができないのか。その日はなかなか寝付けなかった。

(記者:片 一也)

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