記事登録
2008年08月05日(火) 15時56分

派遣社員〜減らす経費の皮算用ツカサネット新聞

今、派遣や日雇い、契約社員という、事業者にとってはかなり都合のいい雇用形態が定着しつつある。特に派遣社員の問題は、派遣先事業者の首を絞めるシステムだということに、なぜ気づかないのかが不思議である。

製造業において、派遣社員はなくてはならない存在となった。しかし、それに従事する従業員にとっては、低賃金のまま、昇給なしといういたたまれない状態でもある。低賃金で、昇給しないと言うのは、就業する側にとってどう映るのか。

責任感の欠如や、労働意欲の低下、会社への不信感、社内のモラル低下など、マイナス局面が多い。それを、採用する企業から見た場合、「所詮は派遣社員」だとあきらめて良い物なのだろうか。

労働者側、雇用者側双方の、お互いの信頼関係の欠如と、やる気のなさ。

端から見ても、これで業績を産むはずがない。

さらに、派遣社員だったとしても、向上心のある「良い若者」が、業界大手、製造会社の先駆的な会社に派遣された場合。これは、あなたがその立場にある、一人の若者として考えて貰いたい。

1.製造業大手の、技術やノウハウを勉強して、正社員の募集があった場合、応募して社員として働く。
2.契約期間満了まで働き、その会社でできる限り、技術やノウハウを勉強し、ほかの会社に就職するときのスキルとして活かす。

単純に、どちらを選択するか・・・。どちらも、非常にまじめな理由で、その会社に勤めている。しかし、2の場合は、ただの産業スパイのしていることと同じではないだろうか。

一般的に、一人の従業員が仕事を覚えて、会社に利益をもたらすまでどれぐらいの期間がかかるか。そのコストはどれぐらいなのか・・・。

例えば、時給1000円の契約社員の教育に、1ヶ月掛かり、作業事故の発生率が、半年で5パーセント、1年で10パーセント低下するまで教育する。これを、「教育費A」とする。

次に、まず、教えている間の、製品を作らない時期の時給に、教育を行う人間の時間当たりの賃金、また、その人間が、新人教育ではなく、実際に製品を作った場合、会社にもたらされるべく利益。まず、これがいくらかを計算する。これが、「教育費B」なのだ。

さらに、新人が、製品を作り始めて作業水準が向上し、会社に恩恵をもたらすまでのアイドリングの期間。作業時間短縮に、どれだけの期間を要したか。

それを、金額として計算するために、あり得ない話ではあるが、もしも、その新人が入社直後いきなり、日産4台を作っていたなら。と仮定した場合、そこから導き出せる利益を、現状から差し引いたとき。計算式で表すと・・・。

就業日数×平均的な製造台数×製造原価−実際の製造台数×製造原価=教育費C


と、言うこと。

さらに、作業事故による、不良品の発生頻度の軽減や、不良品対策、新人のクレーム処理にかかった実務経費。これも、「教育費D」として考えなくてはならない。

実際に派遣社員を利用し、教育をしようとした場合は、この教育費のA〜Dまでを加算しなくてはならない。

一言に「教育費」と言っても、これだけの見方をしないといけないのである。

さらに、冒頭で書いたとおり、就業意識の低下による、製品の価値の低下も、必須コストとして、計上して貰いたい。

この場合、一人の従業員を、一般的な契約社員の契約日数でもある、半年から1年で、元が取れるのかどうか・・・。当然、そこで人件費を正攻法でペイすることは無理なのである。

で、どういうやり方をするのかというと・・・。

常に、時給単価が1円でも安い従業員に入れ替えるのである。


しかし、それは単なる帳簿上の「あやとり」にしかならないことを、知って貰いたいのである。また、大量の人材を安く導入、消費すると言うことは、技術ノウハウの流出も、覚悟すべき点だと思う。

また、このように教育費を厳密に計算した場合、教材費を含まない一人当たりの教育費は、200万円から300万円が一般的である。不良品を作ってしまった場合、その製造コストも教育費として計上した場合、製造業において、一人当たりの教育費はいくらになるのだろうか。

それは、業種や業態、製品の付加価値によって様々なので、計算に入れないことにするが。しかし、あくまで人材の導入と教育を、設備投資として考えた場合。

その場合、同様の経費に基づき産出される、導入価格はいくらになり、耐用年数は何年あれば、会社は減価償却費を払いきり、減価償却後、何年運用すれば利潤につながるのか。

そういう、浅ましい見方で、派遣社員を見た場合、多くの企業が赤字決算のまま、人材を捨てているという現状にはないだろうか。しかし、その赤字決算は、人材そのものにかかったのではなく、人材派遣会社との取引にかかった物であるのだ。

つまり、派遣会社は、企業に対して無責任に人材を放出すればするほど、左うちわのボロ商売となる。転じて、それをうける側は、安物買いの銭失い、そのサイクルから抜けなくなるのである。

おまけに、向上心のある若者は、その会社に根付かないわけであるから、転職先で前職のノウハウを如何なく発揮する。その先がライバル企業であるなら、派遣社員を多用すればするほど、競争率の低下を産むのだ。

結果、生き残りをかければ、低賃金の派遣社員をより求める結果となる。


結局、企業という物は、「派遣社員」という、派遣会社の商売の餌食になって、何を残そうとしているのか・・・。ちっとも解らないのだ。


国内産業の衰退と、職業派遣会社を通じた、日本企業のたたき売りにより、日本経済は瀕死の状態にあると思う。それを立て直すのは、やはり企業の実務努力だと思う。

今は良いかもしれない。しかし、負け組を差別しているうちに、「負け国」にならないよう、今のシステムを考えて貰いたい。


関連記事:
【正社員 VS 派遣社員】派遣の未来
派遣社員〜減らす経費の皮算用
「日雇い派遣」禁止への舞台裏
人派(じんぱ)さんの気持ち


(記者:明野 亘)

■関連記事
明野 亘記者の書いた他の記事
「経済・経済・景気・雇用」カテゴリー関連記事

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080805-00000007-tsuka-bus_all