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2008年08月04日(月) 11時27分

滑稽でも前向きに生きようじゃないかオーマイニュース

 デジタル作品に特化した映画祭、Skip City Dシネマ映画祭が今年も埼玉県川口市で開催されました。国内から作品を募った短編映画で最優秀作品賞(川口市民賞100万円)に選ばれた「エレファント・マド」(2007年・59分 監督:HAMU=小林重昭・本多真人)を、たまたま見ることができたので感想を書きたいと思います。

 この映画を見て何よりも強く印象に残ったのが、主演、脚本、監督の本多真人さんの演技でした。一見地味なサラリーマン役で、ポツリポツリと躊躇(ちゅうちょ)しながら、それでも裏に強い信念を感じさせる語り口調は、リアリティーがありました。

 日本で普通に育ってしまった私たちは、総じてコミュニケーションの苦手な文化を十字架のように背負っているように思います。機能不全家族といった家族の問題や、増えている残虐な事件、ひきこもり、ニートなど、日本人のコミュニケーション音痴はあらゆるネガティブな形となって社会に現れているように思います。

 ところが、この映画では、そんな私たちの等身大のコミュニケーションのありかたが、不器用さを妙に隠したり飾りたてたりすることもなく、誠実に描き出されているように感じました。そんな飾り気のない表現から、私は、不器用であっても、滑稽(こっけい)でも、前向きに生きようじゃないか、という確固たるメッセージを見たように思います。

 昔、演劇をかじったものとしては本多氏がどのようにあの役作りをしたのかが気になるところでした(そんな疑問の答えも、すぐに見つかるのが映画祭の楽しみの1つです。)

 上映終了後、質疑応答に立った共同監督の小林氏の雰囲気、話し方は主演青年にそっくり。実際の青年役であった本多氏は都合で来場されておらず、ぱっと見ると「監督が役作りのモデルだったのか」と結論を出ししたくなります。しかし、コピーするにしても、大変な作業なのではと思われ、質問してみることにしました。

 小林氏によると、本多氏本人が素のままで映画の青年のような雰囲気、語り口なのだとか。苦労して役作りする俳優からは「ずるい」という声があがりそうなほど、自然で味のあるキャラクターが描き出されていました。

 筆者が一緒にいた仲間の間で批判点としてあがっていたのは、59分という長さが短編としては少し長すぎるのではないかという意見でした。

 これについては、会場での質疑応答で、同じ舞台に立っていた「おとうさんのたばこ」(2007年、17分、塩崎祥平監督)から逆の意見も出ていました。この日、塩崎監督は自らも壇上で答える立場でありながら、マイクをとって「主役の青年が非常に気になり、彼の仕事が何なのかもっと描いて、長編にしては」と称賛ととれる発言をされていました。

 また、この塩崎監督の「おとうさんのたばこ」に撮影当時7歳で主演した朝田帆香(あさだ ほのか)ちゃんの演技も非常に自然で、観客を驚かせていました。Q&Aでは演技力に魅了された観客から質問が寄せられましたが、もの怖(お)じすることなく、かといって出過ぎた様子もなく、そつなくかわいく回答する姿に感心させられました。

(記者:ヒルトン 香織)

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