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2008年08月03日(日) 00時00分

(下)「カキコして」娘に別の顔読売新聞

バイト、異性…親に話さぬ世界

女子高校生が携帯で作った自分のページを見せ合う(都内で)=吉岡毅撮影

 携帯電話サイトで高校3年生の長女(17)の名前を検索してみた。「やっぱり」。娘のプロフを見つけた神奈川県の女性(49)は、目を覆いたくなった。

 「友達募集、カキコ(書き込み)してね」というコメントと、プリクラの顔写真。居住地や学校、メールアドレスまで載っている。

 書き込みからは、アルバイトをしていることや好きな異性がいること、交友が学校以外に広がっていることもうかがえた。どれも「自分の知らない娘」だ。

 思い返すと、昨秋から様子が変だった。食事中も携帯をいじり、ビニール袋に入れて風呂場にまで持ち込む。帰宅が遅くなり、カバンから通学ルート外の東京・渋谷駅の切符が出てきたこともあった。

 「危ない目に遭ってからじゃ遅いのよ。プロフはやめて」。意を決して切り出した。だが、娘は「大丈夫」と言うばかり。4日間話し合い、最後は泣いて懇願した。娘はしぶしぶ応じたが、「仮名で登録されたら分からない」という不安は消えない。あれ以来、娘が別人のように見える。

 携帯での友達とのやりとりについて、親子で話してますか——。日本PTA全国協議会が昨年11月、小学5年生、中学2年生と、その保護者の計約7000人を対象に調査したところ、親は平均して8割以上が「子供は話していると思う」と答えたが、子供は4割以上が「親には話さない」と回答した。一方、「親子で使用のルールを決めているか」との問いにも、親は6割近くが「決めている」と答えたのに、子供は7割近くが「ない」と答えた。親子間のギャップは大きい。

 親子関係をも変えうる携帯と、どうつきあうか。

 「子供には持たせない」という選択をした町もある。人口約4万5000人の石川県野々市町では、2003年から行政と学校、地域が一体となって、「携帯を持たせない運動」を始めた。携帯の危険性を親子で考える授業を開いたり、チラシや小冊子を配ったり。その結果、携帯保有率は今年1月時点で小学生が6・3%、中学生は15・3%。全国平均の小学生31・3%、中学生57・6%に比べ、かなり少ない。

 広島市も先月から条例で、未成年者への携帯販売の際は、有害サイトを閲覧できないフィルタリングをかけるよう義務化した。

 携帯保有率が小学生41・4%、中学生が79・5%に達している横浜市は、「使用を認めた上でマナーを教える」方針にかじを切った。「これだけ子供の生活に浸透してしまうと、もう後戻りはできない」と市教育委員会の斎藤宗明・児童生徒指導担当課長(52)は説明する。先月、学校や保護者、地域の代表者が集まって連絡会議を発足。秋までに子供をトラブルから守る方策をまとめる予定だが、「学校も家庭も教えるノウハウをもたないのが現実」と嘆く。

 「日本では青少年保護の仕組みが整わないまま、世界で類を見ないほど子供の携帯サイト利用が普及してしまった」。藤川大祐・千葉大准教授(教育方法学)は指摘した上で、こう提言する。「携帯サイトを何のために使わせるのか。あふれる情報からどう子供を守るのか。家庭や学校、業界も含め、社会全体で考えていく必要がある」(この連載は吉原淳、田中健一郎、山下昌一が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/national/oya/oya080803.htm