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2008年08月01日(金) 00時00分

基礎からわかる地デジ移行読売新聞

 地上波テレビのアナログ放送が終了し、デジタル放送(地デジ)へ完全に切り替わる2011年7月24日まで、3年を切った。高画質で多機能のデジタル放送は、テレビの利用方法を大きく変える可能性を秘めているが、現時点では完全デジタル化について国民に十分な周知が行われているとは言い難い。地上デジタル放送とは何なのか、見るためにどんな準備が必要なのかなどをまとめた。

視聴方法は? チューナーか対応TV必要

地デジを受信するにはUHF用アンテナが必要だ

 地デジを視聴するには、アナログ用のテレビに専用チューナーを接続するか、デジタル対応のテレビを購入する必要がある。アンテナも、UHF(極超短波)用なら基本的にそのまま使えるが、VHF(超短波)用ならUHF用と交換するか、デジタル放送が見られるケーブルテレビ会社と契約することが必要だ。

 現在、家電量販店などで販売されているデジタル放送専用チューナーの価格は2万円程度。デジタル放送対応のテレビは4万円台(液晶の国産17インチ型)からあるが、売れ筋は42インチ型で25万〜30万円という。

 総務省は電機メーカー各社に5000円程度の簡易型チューナーの開発を要請。09年にも安価な機種が登場する見通しだ。

 ただ、専用チューナーを利用しても、ハイビジョンに対応しないアナログ用テレビだと、画質や音質はアナログ放送と変わらない。

 アンテナの交換には、一戸建ての場合、工事費を含め3万円前後かかる。今のアンテナがUHF用でも、デジタル化に伴って電波の方向が変わると向きを変えなければならない。


地デジ専用チューナー。アナログ放送用のテレビも、これにつなげば使い続けることができる

 首都圏では12年に新東京タワー「東京スカイツリー」が開業する。電波塔が現在の東京タワーから移ると、アンテナの再調整が必要になる場所もある。

 共同アンテナで受信しているマンションなどの集合住宅や、電波障害のため共同アンテナを利用している地域は、アンテナの交換が必要なら、費用の負担について住民同士で相談する必要がある。

 ケーブルテレビで地上波のテレビ放送を視聴している場合は、「セットトップボックス」と呼ばれる専用の受信装置を使っていればそのまま地デジを視聴できるが、そうでなければ専用チューナーが必要だ。

 一方、BS放送も地上波と同じ時期に完全デジタル化する予定で、NHKやWOWOWなどが流しているBSアナログ放送は見られなくなる。BSの場合も、地上波と同様にテレビの買い替えかチューナーの接続が必要だが、アンテナは現在のものが使える。

 チャンネルの番号(リモコン番号)も注意したい。地デジでは、NHKが全国共通になり、総合テレビは1または3(東京と大阪は1、名古屋は3)、教育テレビは2(新聞のテレビ欄では「D2」「デジタル2」などと表記)に統一されている。民放も一部の放送局はアナログと番号が異なる。東京の場合、アナログが10のテレビ朝日は地デジが5に、12のテレビ東京が7になっている。

アナログとの違いは? 画像や音声鮮明に

 これまでテレビの主流だったアナログ放送は、日本でテレビ放送が始まった1953年(昭和28年)から続いている。放送局は音声や映像を連続する電気信号に変え、電波に乗せて家庭のアンテナに送信している。

 送信する電波にはVHFとUHFが使われ、これを受信したテレビが信号の大きさの変化を読み取って画面に番組などを映し出す仕組みだ。

 これに対し、デジタル放送は、音声や映像を「0」と「1」を組み合わせた数値信号に変換し、UHFの電波に乗せて送信する。このUHFの電波を地上から発信する放送が「地上デジタル」だ。

 テレビ放送は画像を細い横線(走査線)に分解して送信している。デジタル放送はその本数が1125本と、アナログ放送(525本)の倍以上あり、高画質のハイビジョンを楽しむことが可能だ。

 アナログ放送には、高層ビルなどの影響で信号が乱れたり、電波が弱かったりした場合、映像がぼやけたり雑音が入ったりしやすい欠点がある。

 これに対し、デジタル放送は、電波が弱くても、数値信号が受信できれば鮮明な画像や音声を視聴できる。電波障害を受ける世帯はアナログ放送と比べて大幅に減少する。

 アナログのレコードは雑音が入りやすいが、デジタルのCDは雑音がないのと同じ理屈だ。

 デジタル放送にはアナログ放送にない機能も多い。例えば、ニュースや天気予報などの情報をいつでもテレビ画面で見られる「データ放送」だ。スポーツ中継を見ながら選手の記録を取り出せるサービスも行われている。

 ただ、デジタル放送にも課題はある。画像データを圧縮して送信し、それを家庭の受信機で元に戻すため情報処理に時間がかかり、アナログ放送より2秒程度遅れる。このため、NHKは正午や午後7時などのテレビの時報をやめた。地震の発生を大きな揺れの前に知らせる「緊急地震速報」も遅れる。

国と自治体対策は? 生活保護世帯に支給

 完全デジタル化に向けた喫緊の課題は、国民への周知だ。

 総務省の調査では、アナログ放送の終了時期を知っていた人の割合は3月時点で64・7%で、1年前と比べて4・3ポイントしか上昇していなかった。完全デジタル化まで3年たらずなのに、地デジを視聴するため、どんな準備が必要かを知っている国民はさらに少ないはずだ。

 「地デジ」の知名度を高めようと、7月24日から、NHKが常時、民放各局がプライムタイム(午後7時〜11時)に放送する番組の冒頭で、画面に「アナログ」の文字の表示を始めた。「この放送はアナログです。デジタルに切り替える準備をしてください」という意味だ。民放は毎日の放送開始時と終了時にも、デジタル放送受信の準備を視聴者に促している。

 国も対策に本腰を入れ始めた。総務省は09年度中に相談拠点「テレビ受信者支援センター(仮称)」を全都道府県に設置して「相談を待つだけでなく、相談を受けるために積極的に出かける」態勢を整える。高齢者や障害者に対する説明会を頻繁に開き、チューナーの販売店やアンテナ工事業者を紹介する。

 経済的理由で専用チューナーの購入などが難しい生活保護世帯には簡易型チューナーの無償支給やアンテナ改修支援を行う。11年7月までに中継局の整備が間に合わない離島や山間部の住民(NHKで約30万世帯、民放で約35万世帯)には09年度から約5年間、衛星放送で番組を送信する。

 マンションなど集合住宅に住む全国770万世帯は共同アンテナを利用している場合が多く、アンテナ交換の工事費負担などについて住民間の調整がなかなか進まない恐れもある。このため、国は「台帳(管理簿)」を作って最新の状況を把握し、関係者に早期の対応を呼びかける。総務省は一連の対策のため、約2000億円を投入する方針だ。

 自治体も動き出した。東京都千代田区は7月17日から、65歳以上の高齢者の世帯を対象にアンテナ設置やケーブルテレビ加入などの費用として最大1万500円を助成する制度を始めた。ただ、地デジ対応のテレビ・チューナーの普及台数は6月末時点で約3600万台と11年7月に1億台にするという政府目標の3分の1強にとどまっており、目標達成は楽観できない。

 東京都新宿区のアンテナ工事会社「メディオテック」には地デジ向けアンテナ改修工事の依頼が多い日で100件を超え、外注業者を含めた約130人がフル稼働している。しかし、対応テレビの値下がりを待つ人も多く、完全移行の間近に工事依頼が急増しかねない。地デジへの対応は早めにしたほうがよさそうだ。

移行の理由は? 電波の有効利用

 地上波テレビ放送の完全デジタル化は2001年の電波法改正で決まった。最大の目的は電波の有効利用だ。放送や通信に使える電波の周波数の領域には限りがあり、日本では、ほぼ満杯になっている。

 デジタル放送は音や映像などの情報を圧縮して送信できるため、同じ情報を送信するのに使う周波数領域はアナログの3分の2程度で済む。完全デジタル化で空く帯域は、次世代の携帯電話や災害情報の通信に割り当てることができる。

 日本の地デジは03年12月から東京、大阪、名古屋の3大都市圏で始まり、06年末までに全国の都道府県庁所在地まで拡大した。11年3月までに、一部の離島や山間部を除き中継局の整備が終わる見通しだ。

世界各国の状況は? 20か国以上が導入

 地デジを世界で最初に開始したのは1998年の英国だ。現在は欧米やアジアの20か国以上が導入し、オランダ、フィンランドなどが完全移行している。

 各国とも、完全移行する際は、経済的弱者などを対象とした補助制度を設けている。米国やドイツのように、受信機の普及状況の遅れを考慮して、いったん決めた完全移行の時期を延期した国もある。

今回は経済部・加藤弘之、石井重聡が担当しました。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080801nt04.htm