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2008年08月01日(金) 15時47分

「和民」を提訴した元パート、弁護士が語るMyNewsJapan

 内部告発したことを理由に通報者を懲戒解雇し、暴力行為による解雇という虚偽の理由を後付けして、内部告発するような奴は再就職できないと脅迫する——こんなにわかには信じがたい違法行為があったとして、「和民」を経営するワタミフードサービス株式会社を20代の元パート男性が訴えた。

 6月の提訴直後、ワタミの渡邉社長は、業界紙のインタビューで、「内部告発を理由に解雇を行った事実は一切ない」と答えている。果たして事実はどうなのか。原告の担当弁護士、法円坂法律事務所の西念京祐弁護士に、詳しい話を聞いた。

 「大阪弁護士会館で行われた無料法律相談に彼がきて、たまたま僕が担当したのがきっかけでした。まだ裁判という話ではなくて、解雇になったが、こういう形で辞めさせられるのは法律的にどうなんでしょうか、という相談でした」

 訴状によれば、原告の男性は高校在学中からワタミフードサービス株式会社と契約し、「和民香里園駅前店」(大阪府寝屋川市)のオープニングスタッフとして勤務し、平成18年8月当時には、同店のパートタイマーの中では最上位のチーフに昇格していた。

 当時、香里園駅前店及びその他の店舗では、パートタイマーは出勤退勤の記録を30分単位で記載するように会社側から指導を受けていた。

 例えば、15:55に出勤し21:45に退勤した場合、本来は5時間50分にわたって働いているのに、16:00に出勤し21:30に退勤したとして扱われ、5時間30分にしか時給が支給されず、実際に働いていた20分が無賃労働とされていた。

 そのため原告は、勤務時間が切り捨てられ無賃労働となるのは労働基準法違反であり、本来の1分単位で管理するように、会社側に対してたびたび是正を提言していた。

 しかし会社側に聞き入れられなかったため、労働基準監督署に行くことを事前に会社側に通告した上で、平成18年7月27日に北大阪労働基準監督署に和民の勤怠打刻ルールについて相談に行った。

 その後、会社側は平成18年8月以降、打刻ルールが不適切であることを認め、方針転換を行い、9月頃には香里園駅前店のパートタイマーにヒアリングを実施して無賃労働分を計算し、差額賃金を順次支払った。

 ところが、原告が労働基準監督署に相談した8日後の8月4日に、香里園駅前店のスタッフルームで、大阪地方を管轄する当時の営業部長から、1ヵ月後に解雇することを通告された。

 そして8月22日には解雇予告通知確認書を渡され、予告どおり9月4日付けで懲戒解雇されたという。

 その後、11月11日に会社側から渡された退職証明書には、解雇の理由が以下のように書かれていた。(店長の氏名は編集部により非公開)

 「あなたは、平成18年5月24日夕方ころ、居食屋『和民』香里園駅前店において、同店店長であり上司である●●の胸ぐらをつかみ壁にガンガンと押しつけ、結果、●●氏の左腕に擦り傷を負わせました。さらにあなたは●●氏を脅迫する目的で、同店の壁を力一杯殴りつけ、結果同店の壁にこぶし大の穴を空け、当社に当該部分の見積もり7万8015円相当の損害を与えました。

 あなたの行為は、前記パートタイマー就業規則第41条7項(パートタイマーが『他人に暴力・脅迫などを行ったり、もしくは他人の金品を窃取するなど、不正義な行為に及んだとき』、懲戒解雇に処する)に該当するものであります。」

 しかし西念弁護士によれば、会社側の解雇の理由は後付けで、原告が労働基準監督署に内部告発をしたのが真の理由であるという。

 「8月4日に原告が営業部長から解雇の通告を受けた際には、『労基に行ったりすることは企業的にリスクだから、その様な人を働かせない』と伝えられたのです。店長への暴行が理由とは全く言われませんでした」

 この際のやりとりを原告が録音したテープがあり、追加証拠として裁判所に提出する予定とのことなので、筆者も聞かせてもらった。

 ダビングはできなかったが、営業部長からの以下のような発言が確認できた。

 「『労働基準監督署に行きますよ』って、企業的にいえばリスクなのね。ずっと続けさせると、もっと何かするかもしれない要注意人物」

 「『この店を好きだ』と言っているのに、この店が存続しないようなことをするアルバイトさんは脅威なの」

 「1か月分の給料をタダで払ってでも辞めてもらって構わないくらい会社は思っている」

 「今後就職して社会人として勤務しても…ここで問題を起こしたばっかりに…将来を棒に振るかもしれない。どうなるかはわからない。別に脅迫とかではないんだよ」

西念弁護士「この時も含めて、彼が辞めさせられた前後に、営業部長や先輩などからいろいろ言われたそうです。

 一緒に飲みながらとか、電話で、ワタミのような大きな会社にたてつくと将来がないよ、とか、大企業だから、他のいろんな会社にもあなたの名前を知らせることができるし、今もすでにワタミ本社で君のことが話題になっているよ。そういうことをすると、どこかに所属したくても出来ないよ、あなたに対するネガティブな情報が流れているよ、と延々と言われたのです。

 原告は当時まだ20歳前後だったので、そのような脅迫行為を受けて、ひじょうに怖くなり、再就職することにも強い不安を感じたため、約半年間就職できず、全く無収入の状態が続きました」

 また、会社側が懲戒解雇の理由としている店長への暴力行為自体もなかったと、原告は主張している。

西念弁護士「店の壁に穴を空けたことは原告も認めていますが、それは別の時の話です。訴状でも述べていますが、5月24日に店の運営を巡って店長と口論となったのは確かですが、その際に店長の胸ぐらをつかみ壁に押しつけるというような暴行はありませんでした。

 もしも仮に暴行があったとして、5月に起こった出来事を理由に、2ヶ月以上も経った8月になってから突然、解雇通知を行うのは極めて不自然です。

 7月末に原告が労基署に相談に行き、労働基準法違反が発覚して会社が指導を受けたため、その報復行為として、8日後の8月4日に解雇を通知したと考えるのが妥当でしょう」

 今後の裁判は、9月1日の非公開の電話会議を経て、その後は公開の裁判も要求したいと西念弁護士は考えている。

(伊勢一郎)


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