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2008年08月01日(金) 11時57分

「好きという感情がよくわからない」〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 恋愛が自由になっている時代とはいえ、なかなか異性とつきあえない、つきあってもうまくいかないという人はたくさんいる。「彼女がいない」と嘆く男性は多いが、女性も同じだ。

 「私は、28歳まで誰ともつきあったことがなかったんです。28歳でやっと好きな人と巡り会ったけど、結局、二股(ふたまた)かけて捨てられて。それからは短い期間で、いろいろな人とつきあってきたけど、いつもうまくいかなくなってしまうんですよ」

 奈津美さん(33歳)は、ため息をつきながらそう言った。つい最近も、半年ほどつきあった彼と自然消滅した。

 「私は好きな人に対しても、あんまり執着しないんです。というより、本当はしてるんだけど、執着しているところを見せたくないのかもしれません。だから相手が自然消滅を狙って連絡を絶てば、絶対に私からは連絡しないから、別れるのは簡単でしょうね」

 なぜ、それほどまでに愛情表現をすることを拒むのだろう。

 「今回、どうして、こんなに男性とうまくいかないんだろうと考えてみたんです。たぶん、両親の影響だと思う。両親はあまり仲がよくなくて、母はいつも父の悪口を私に吹き込んでいたんです。それも、父親個人のことというよりは『男ってダメ』『男はバカなの。だからあなたは男に頼って生きてはだめよ』と、男をひとくくりにして悪く言っていました。確かに父は、だらしないところもあるし、浮気もしてた。私は父とは違う人を、もっとすてきな人を選びたいと思っていましたけど、誰を見ても、『やっぱり男ってダメな存在かも』と思ってしまう。それで誰ともつきあえなかったんです」

 28歳で知り合った人は、学歴も立派だったし、勤めている会社も一流だった。この肩書なら、誰にも文句は言われないとつきあい始めたものの、奈津美さんは「必死に彼を好きになろうとしている」状態だった。好きだからつきあったというより、彼からの誘いに乗っただけだったようだ。そうこうしているうちに、彼は別の女性を好きになって去って行った。

 「ほかに好きなコができちゃって、と面と向かって言われたとき、『あ、そう。じゃあね』ってその場から離れました。彼のほうが拍子抜けしたみたいで、『本当にいいの?』とメールをくれたくらい。返信はしませんでした。しかたないですよね、向こうが別れたいと言っているんだから」

 その後も、ほかの男性から誘われることはあった。そのたびにつきあってみたが、「好きという感情がよくわからない」と言う。

 「嫌いじゃないからつきあってみるけど、どうしようもなく好きだとか、彼を独り占めしたいとか、そういう欲求がわいてこないんです。会えば楽しい時間を過ごせるけど、会わなければ会わないでも別にどうってことないし。友だちは『そんなの恋じゃないと思う』と言うし、私もそう思うんです。でも、どうしても男性を尊敬することはできない。酔った恋人を見ただけで、心の中に『何だ、こいつ』という気持ちがわいてきちゃうんです」

 その原因が両親の不仲にある、それに気づいて、奈津美さんは今さらながら、生まれ育った家庭環境を恨んだと言う。

 大人になってから、思い出したかのように家庭環境を恨み始める人は少なくない。恋愛や仕事での人間関係などがうまくいかなくなったとき、過去の他者や状況のせいにしてしまえば、自分自身は楽かもしれない。だが、たとえ原因がそうであっても、大事なのは、ここからどうしていくかということではないだろうか。

 「きっと私は一生、結婚なんてできないと思う。でも、恋愛くらいはしたいんです。会社の後輩なんかでも、無邪気に『彼のことが好きで好きでたまらないの』という子がいるんですが、うらやましいなあと思う。どうしたら、あんなに目をきらきらさせて、誰かのことを語れるんだろうって。今、好きだって裏切られるかもしれないし、すぐ冷めちゃうかもしれないのに、それを考えずに『好き』って言えるのはいいことですよね」

 どこか淡々とひとごとのように話す奈津美さん。決して感情に乏しいわけではないのに、出てくるのは冷めた言葉ばかりだ。

 心のバリアーを取り去らない限り、恋におぼれることはできないのだと思う。そして、心のバリアーを取り去るのは、人の長所を素直に見て、人を素直に受け入れることしかないような気がする。「男なんて」という母の呪縛(じゅばく)を、自らの手で断ち切るしかないのだ。

(記者:亀山 早苗)

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