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2008年05月11日(日) 10時28分

船場吉兆、「お家芸」の隠蔽体質 取材当初は使い回し否定産経新聞

 もはや「お家芸」と言うしかない。女将は問題をひた隠しにした揚げ句、追及されると開き直りともとれる持論を展開した。

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 高級料亭「船場吉兆」(大阪市)。本店や博多店をはじめ、今年1月に閉店した心斎橋、天神の両店を含む全料亭で食べ残しの使い回しが発覚した。産経新聞は先月上旬、使い回しについて船場吉兆側に取材を申し入れていたが、当時の回答は「そういう事実は判明していない」だった。
 取材には否定しながら、使い回しを報じた今月2日午後、立ち入り調査に入った大阪市保健所には事実関係をあっさり認め、「公表することに頭が回らなかった」と釈明。一からの出直しを誓ったはずの老舗の背信は一体、どこまで続くのか。
 会見での説明によると、創業者の三女で女将の湯木佐知子社長(71)が使い回しを知ったのは、今年3月ごろ。牛肉偽装事件を捜査中の大阪府警から任意の聴取を受けた際、捜査員から聞かされたという。
 女将は「びっくりした。本当にむちゃくちゃなことをしてくれた」と、「もったいない精神」で使い回しを指示したとされる夫の正徳前社長(74)を批判した。
 しかし、産経新聞が取材を申し込んだ先月、代理人を通じて伝えられた女将と前社長の回答は「使い回しは判明していない」。一連の偽装表示問題の再発防止策として、内部通報窓口を設置したという船場吉兆。今年1月からの営業再開後は「一切やっていない」(女将)と強調しているが、肝心のトップの対応は旧態依然の隠蔽(いんぺい)体質を改めて露呈した。
 今月7日の昼夜の謝罪会見で、公表しなかったことを追及された女将はこう強弁した。「『食べ残し』といわれるのは不本意。手付かずの残された料理だった」
 これまでに判明している使い回し料理は、刺し身の盛り合わせ▽アユの塩焼き▽サーモンの焼き物▽わさび−など少なくとも8品目。1人数万円の値段を取る老舗の高級料亭だけに消費者の怒りはすさまじく、インターネット上でも書き込みが殺到、「場末の飲食店でもやっていない」「最悪」「究極のリサイクル」と厳しい意見が相次いだ。
 使い回しは調理場全員の共通認識だったという。本店の山中啓司料理長は「料理が足りなくなったときにやっていた。2週間に1回程度の頻度」と説明したが、元従業員は「本店の場合は予約客がほとんどで、飛び込みの客は少ない。料理が足りなくなることはあまりない」と指摘する。
 「使えるものはすべて使う」
 関係者の証言によると、食べ残しの使い回しはすべて、正徳前社長の指示だった。博多店の料理長も「(前社長は)雲の上の存在だった」と話し、意見ができなかった当時の社内風土を訴えている。
 今年1月の新体制発足まで、同社は全役員を創業者一族が占める典型的な「同族経営」だった。ヒソヒソ会見で女将のキャラクターが話題になったこともあり、船場吉兆の一族全体に不審の目が向けられたが、実質は前社長のワンマン。女将や長男に怒鳴り声を上げる前社長の姿を、複数の従業員が目撃している。
 家父長的な体質が残る料亭業界で、主人の命令は絶対。これまで使い回しを公表してこなかったことについて、のれん再生のために同社にとどまった従業員を責めるのは酷だ。
 予約のキャンセルが相次ぎ、経営には再び暗雲が立ち込め始めた。旧経営陣から社長に昇格した女将は「知らなかった」とはいえ、公表を遅らせて影響を拡大させたのは間違いない。地元の商店主は「落ちるところまで落ちてしまった」とさびしげにつぶやいた。もう言い逃れはできない。

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