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2008年04月12日(土) 13時01分

後期高齢者医療制度:現場混乱、負担は増 長生きの「幸せ」配慮を /北海道毎日新聞

 ◇年金から「保険料天引き」、15日開始
 75歳以上の高齢者と寝たきりなど一定の障害がある65〜74歳を対象に導入された後期高齢者(長寿)医療制度は、道内でも新しい保険証がなかなか届かないなどの混乱を抱えたまま、15日に年金からの保険料天引きが始まる。少子高齢化の進む中、安定した医療費を確保するため高齢者にも所得に応じた負担を求める制度だが、食料品などの値上げもあって年金生活者の負担感は増すばかり。「後期高齢者」と呼ばれることへの反感もあり、制度の定着には時間がかかりそうだ。【鈴木勝一】
 ■「後期」に反発強く
 「『末期』が近いと告げられているよう。年寄りを愚弄(ぐろう)しているのかしら」。札幌市東区の主婦、高橋寿栄子さん(80)は「後期高齢者」の呼称で傷つけられた75歳以上の思いを代弁する。反発の強さに慌てた政府は「長寿医療制度」という名称を使い始めたが、法律に明記された正式名称は変わらない。
 高橋さんは夫婦2人暮らし。先月中旬、市から通知のあった徴収額はこれまでの国民健康保険料より2割ほど高い。「金額はあまり変わらないと聞いていたのに」。賃貸アパートの家賃収入があるため、年金収入だけの世帯より保険料が高くなる。「灯油代など物価が上がり、家賃収入も滞りがち。役所はお金を取ることばっかり早いんだから」と不満を漏らした。
 ■問い合わせ殺到
 高齢者医療制度がスタートした今月1〜4日、札幌を除く道内各市町村には2300件もの問い合わせが殺到。札幌市への問い合わせは2、3両日だけで3000件に上った。内容は「制度の名称が不適切」「内容のPRが不十分だ」などで、同市の担当者は「かなり厳しい意見が多かった」と打ち明ける。
 保険証が届かない混乱が続いたまま年金からの天引きが始まることも批判を増幅しそうだ。ある自治体の担当者は「入居している施設名があて先に書かれていなかったり、本人が入院中で受け取れないなど、さまざまなケースがあった」と準備不足を認める。
 制度を運営する北海道後期高齢者医療広域連合によると、道内の被保険者は61万6181人(1日現在)。道内では美唄市など48市町村が窓口で被保険者本人に直接保険証を手渡したり、胆振管内白老町など4町村が自宅や入居施設を職員が個別に訪問しているが、10日現在、道内の未着数は1645件、紛失などによる再交付が4257件に上っている。
 ■かさむ老人医療費
 道によると、05年度の道内の老人医療費総額は約6610億円で、東京、大阪に次ぐ全国3位。厚生労働省の統計で同年度の1人当たり老人医療費は100万1110円で、福岡県の101万9650円に次ぐ全国2位。道は「単身または夫婦のみの高齢者世帯の割合が全国平均よりも高く、面積が広大なうえに病院が都市部に集中し、入院が長期化しやすい」と医療費がかさむ要因を分析する。
 北海道は医師不足も深刻になっており、地域医療の維持は喫緊の課題。札幌市南区の元公務員、山家(やんべ)清二さん(78)は8月までの5カ月間に年金から天引きされる保険料額が10万円を超えるが、それでも「医療制度改革は時代の趨勢(すうせい)。払うことに文句はない」と理解を示す。
 ただ、山家さんは「高齢者への配慮が感じられない。3年間とか5年間、病気をしなかったら表彰してもらいたい」と注文もつける。長生きを「幸せ」と感じられる社会を高齢者たちは欲している。

4月12日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080412-00000084-mailo-hok