戦車なのにプリンみたくやわらかいボディー。大きくてつぶらな瞳。勇ましいマーチに乗って「進撃」じゃなく、「退却」する。その名も『やわらか戦車』。ネット上にデビューしたのは2005年暮れだった。
やわらか戦車は、情けないほど弱い。子猫にあっさりさらわれるし、指でつつかれただけで「痛い、痛い」。これが「かわいい〜☆」と若い女性たちのハートをがっちりつかんだ。
作者は茨城県つくば市に住むラレコさん(36)。名前からして女性と思いきや、実は男性なのだ。「学園都市」の関係者でもない。村だったころからのつくばの住人。眼鏡をかけたまじめそうな青年だ。「みんなに作品をかわいがってもらうと、うれしさがこみあげてくる。毎回、その繰り返しです」。ほんわかした口調で話す。
病院の当直事務などで生計を立てていたが、人気に火がついた時のネットの勢いはすさまじい。月1本の“連載”。1月に数十万回接続があった。ぬいぐるみに絵本、Tシャツ……と、グッズがあれよあれよという間に発売された。
06年秋には、文化庁の「日本のメディア芸術100選」エンターテインメント部門で1位を獲得。公開から1年もたたないのに、マリオやポケモンを抑えての快挙だった。
おいっ、村にこもってオタクしている場合ではないぞ。進軍ラッパは鳴り響く。今では月に2、3回、つくばエクスプレスに乗って上京し、関係者との会議に出たりしている。
本名も、顔写真も、この期に及んで非公開。そんな内気な彼にもう一つ、夢のようなアニメ作りの話が飛び込んでくる。「ボクと一緒に空を飛ぼうよ」。その声はアトム。やわらか戦車と“合体”して、大空を目指すという。お話の始まり始まり〜〜
■メディア芸術100選■ 文化庁が日本を代表するアートや漫画などをインターネットでの一般投票を基に選出した。アニメーション部門『新世紀エヴァンゲリオン』、マンガ部門『スラムダンク』、アート部門は岡本太郎さんの『太陽の塔』がそれぞれ1位に輝く。