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2008年02月26日(火) 01時45分

「逃亡の恐れない」 三浦元社長、司法手続きに不満朝日新聞

 日本で無罪が確定した26年余り前の事件について、今度は米自治領の裁判所で司法手続き——。いわゆる「ロス疑惑」をめぐり、サイパンで身柄を拘束された三浦和義元社長(60)は25日の法廷で、手続きを中心に次々と質問や意見を述べ、突然、そして再び身に降りかかった嫌疑へのいらだちをあらわにした。

三浦和義元社長(中央)はサイパン地裁での司法手続きが終わり法廷を出たが、報道陣に囲まれて、また法廷に戻された=25日午後、サイパン・ススペで

米カリフォルニア州での司法手続きの流れ

 茶色い髪に日焼けした顔の元社長は、被収容者用の服で着席。手続きの初めで、黙秘権の説明を受けるなどした元社長は「今までのところは理解しました」と答え、冷静に見えた。様子が変わったのはデイビッド・ワイズマン判事が「保釈は認めない」と告げてからだ。

 「なぜ保釈されないんですか?」「これは古いケース(事件)で証拠隠滅の恐れも、逃亡の恐れもないのに」。畳み掛けるように判事に問いかけた。

 「私は公正なことを求めたい。判事と検事が何を話しているのかわからない」。開始から約30分、今度は通訳への不満を口にした。手続きはいったん中断。その後、別の通訳を入れて黙秘権などの説明をやり直した判事と元社長のやりとりがまた始まった。

 「私自身、収入は全くないんですよ」

 「サイパンに来るお金はどうしたんですか?」

 「奥さんは年収3万ドル(約320万円)と話していましたね」

 元社長が語気を強めたのは、弁護費用が公費で賄われる「公設弁護人」の希望が退けられた時だった。これに対し、判事は、この制度が資力がない容疑者・被告が対象だとして、元社長は「対象外」であることを諭すように話した。

 「ここでの3万ドルの価値は、日本とは違う」などと元社長が食い下がると、判事は傍聴していた妻良枝さんを呼び寄せていくつか質問。結局、「担当部署に意見を上げさせた上で判断する」と結論を先送りした。

 閉廷後、一般の廊下に出た元社長と廷吏の周囲には日本からのマスコミ関係者が殺到。いくつものカメラが向けられ、裁判所内が一時騒然とする場面もあった。

■「無罪判決を米も尊重を」 日本の弁護士

 日本国内での刑事裁判で三浦和義元社長の弁護人を務めていた弘中惇一郎弁護士と喜田村洋一弁護士が25日、東京都内で記者会見を開き、「立件は不当だ」などと改めて今回の逮捕に抗議した。

 弘中弁護士は、三浦元社長の元妻が殺害された事件の捜査は日米両国で協力して進められたと指摘。「日米で協議して日本で(裁判を)やると決めた。米国から(日本側に)資料が提供されたり、警察官や関係者が日本の法廷にきて証言したりというプロセスを経ている」「それで出た無罪という裁判所の最終的な結論を米国も尊重するべきだ」と主張した。

 そのうえで、日本の法務省や警察庁に対して、米捜査当局への新たな捜査協力をしないよう申し入れる考えを表明した。

   ◇

 サイパンの裁判所の審理などを経て、ロス市警に身柄を移された場合、どのような司法手続きをたどるのか。

 カリフォルニア州の司法手続きに詳しい藤本哲也・中央大教授によると、米国では州ごとに刑事司法手続きが一部異なる。同州の場合、逮捕された容疑者は、捜査当局による取り調べを受ける。その後、「予備審問」で判事が証拠などから起訴に相当する理由があるかを判断。起訴に相当するとされ、容疑者が罪を認めなければ、16人から23人の市民からなる「大陪審」が起訴するかを決める。大陪審が起訴すべきだと判断すれば、州地裁で審理を受ける。

 裁判の罪状認否で被告が罪を認めなかった場合、12人の陪審員が双方の主張を聞いて有罪か無罪かの評決を下す。有罪と判断されれば、裁判官が量刑を言い渡す。有罪が不服の場合、さらに上級審で審議される。同州の最高刑は死刑。

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