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2008年02月24日(日) 14時08分

「なぜ今」 警察、手出せず見守る姿勢 三浦元社長逮捕朝日新聞

 いわゆる「ロス疑惑」として報じられ、社会を揺るがした「三浦一美さん銃撃事件」の発生から26年余。日本の刑事裁判では03年に無罪が確定した三浦和義元社長(60)が米国・サイパンで逮捕された。米警察のねらいは何か。新たな事実が明らかになるのか——。一美さんの遺族はもとより、三浦元社長を知る関係者や当時の捜査関係者も事態の進展に驚きを隠さない。

 一美さん銃撃事件など一連の「ロス疑惑」の捜査にかかわった当時の捜査幹部らは、日本の警察としては「過去」の事件だけに、米国での急展開に驚き、困惑した。

 警視庁の捜査1課管理官として捜査を直接担当した寺尾正大さん(66)は「日本の裁判で無罪が確定した事件について語るのは控えたい」としながらも「格別の思いがある」と話した。

 寺尾さんは、管理官在任4年の大半をロス疑惑に費やした。一美さん銃撃事件では渡米し、ロス市警とともに現場検証などをした。日本の警察幹部が海外の現場に出向き、事実上捜査するのは異例だった。

 銃撃事件の裁判では証人として出廷したこともある。それだけに無罪が確定したときは「残念だった」と振り返る。

 ロス市警については「厳格な捜査を遂げる優秀な捜査機関だ」といい、「今後の捜査を見守りたい」と語った。

 88年に一美さんの殺人容疑で三浦元社長を逮捕した当時の警視庁捜査1課長だった坂口勉さんは「寝耳に水で、ただただびっくりしている」と話した。坂口さんは「米国はまだ執念を燃やしていたのかと思う。今後の動きを関心を持って見守りたい」と話した。

 米側が国内の捜査記録の提供などを求めて来る場合、窓口となる警察庁には23日夜時点で、米国側から連絡はない。

 ある幹部は「米国の警察が捜査をしているとは知らなかった。すでに無罪が確定しており、日本の警察は手も足も出ない」と嘆いた。

 警視庁の幹部も「まったく寝耳に水。捜査資料の提供などを求めてくるぐらいなら、すでに協力要請があっていいはずなのに」と話した。

■訪米いさめる友人も

 川崎市に住む被害者の一美さんの母、佐々木康子さん(75)は23日夜、三浦元社長の逮捕について、「まさかこういうことになるとは思っていなかった。今はまだはっきりとした逮捕容疑も分からないので、どう答えたらいいか分かりません」と戸惑いをみせた。

 一美さんが亡くなってから長い年月が過ぎた。三浦元社長がテレビで取り上げられたと知人から聞かされても、見ないようにしてきた。「顔なんて見たくない。事件の記憶も薄れてしまった」

 逮捕を知ったのは報道機関からの電話。警視庁に尋ねたが、状況を把握していなかったという。24日、改めて問い合わせをするつもりだ。

 三浦元社長は現在は神奈川県平塚市在住。昨年ごろ、住宅兼店舗を新築し、妻と住んでいた。近所の人の話では、妻が米国にジーンズなどの雑貨を仕入れに行き、店で販売するなどしていた。

 三浦元社長が所属する芸能プロダクション「アルファ・ジャパンプロモーション」の荒井英夫社長は、逮捕について「この件については当分ノーコメント」とした。

 親交があり、元社長のトークショーのゲストにも登場した高須基仁・モッツ出版社長は、1月に催した自身のパーティーで会ったという。「いつもの淡々とした三浦だった」。元社長から「昨年末、ロス市警に出向き、自分の疑惑について話し合いをした」と聞き、あまり米国には行かないほうがいい、と忠告したという。

 22日夕、サイパンの土産物店の男性から元社長拘束を知らされた。高須社長は「もう決着はついているのに何を今更。日本の法律は米国の前には無力なのか」と話した。

 三浦元社長は03年に最高裁で無罪判決を受けた後、報道被害や冤罪問題について発言するなど、「人権派」としての活動も目立った。

 04年には名古屋市で受刑者の人権を考える催しに参加し「刑務所内の処遇が悪い。連携したい」などと講演。06年に人権団体主催のセミナーで、「松本サリン事件」で初め犯人視された被害者の河野義行さんと講師を務めたこともあった。

 「ロス疑惑」報道を研究、元社長とも付き合いがある浅野健一・同志社大学教授は、「突然のことで驚いている。今回の逮捕をもって最高裁での無罪確定がおかしいと判断するのは誤りだ。米警察当局が実際に起訴するかわからない。ロス疑惑では複数の報道機関による名誉棄損問題が起きたが、裁判の結果が出ていない段階で『犯人』扱いすれば、また同じ問題が起きる。慎重な捜査が求められるのと同様、メディアは慎重な報道が求められる」と話した。

 三浦元社長は03年5月、東京都港区の書店で雑誌を万引きしたとして、警視庁に窃盗容疑で現行犯逮捕された。このときは不起訴処分だった。昨年春、今度は平塚市のコンビニエンスストアでサプリメント6個を万引きした窃盗容疑で逮捕された。小田原簡裁が罰金30万円の略式命令を出し、元社長は罰金を納付したうえで、正式裁判を申し立て、万引きを否認。現在審理中。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0223/TKY200802230382.html