記事登録
2008年01月29日(火) 01時57分

ミート田中社長初公判 配合割合を指示 起訴事実認める朝日新聞

 全国で食品偽装が発覚するきっかけとなった北海道苫小牧市の食肉加工業者ミートホープ(自己破産手続き中)による偽装牛ミンチ事件をめぐり、不正競争防止法違反(虚偽表示)と詐欺の罪に問われた社長の田中稔被告(69)の初公判が28日、札幌地裁(嶋原文雄裁判長)であった。田中社長は罪状認否で「間違いありません」と全面的に起訴事実を認めた。

 検察側の冒頭陳述によると、本格的に偽牛ミンチの製造を始めたのは1996年ごろ。本社工場に「挽肉(ひきにく)班」をつくり、豚の肉を混ぜたり、牛の血液製剤で赤みをつけたりする手口を指示したという。牛の血の入手が難しくなってからは、代わりに豚の血液製剤を使うようになった。「配合」の割合も具体的に伝え、出来栄えを自らチェックした。

 00年ごろには、ナイロンや骨などがミンチに混ざっているという苦情が相次いだことから、原材料を重ねてミンチにする「二度びき」も始めてごまかすようになった。

 02年5月ごろには、入社間もない三男が社内で耳にした不正をただしたが、田中社長はこう答えたという。「ああ、そうだよ」「そうでもしないと、もうからないだろ」

 従業員を怒鳴り散らすこともたびたびあったとされる。「ちょっとにおいがするぐらいで捨てるやつがいる。肉は金と同じだから大事に扱え」。そう言って腐臭がする肉を殺菌消毒して使わせたほか、冷凍肉も屋上にためた雨水で解凍させた、と検察は指摘した。

 そんな田中社長も「いつか発覚するんじゃないか」と不安を覚えるようになっていた。「もうやめようか」。07年5月、工場の責任者にそう言った。しかし、在庫の原料の山をみて、結局は沙汰(さた)やみになったという。朝日新聞の報道で偽装が明らかになったのは、その1カ月後だった。

 起訴状によると、田中社長は、06年5月から約1年間、豚や鶏、羊などを混ぜたミンチ肉を「牛100%」と表示し、取引先企業に出荷。北海道加ト吉(赤平市)など3社から約3900万円をだましとったとされる。不正は以前から続いていたとされるが、検察側は押収資料に基づき、1年間に絞って起訴した。

    ◇

 法廷には、不正を告発したミートホープの元役員、赤羽喜六さん(72)の姿があった。

 苫小牧市のホテルで支配人をしていた12年前、顔見知りだった田中社長に誘われて営業担当の幹部に。懸命に取引先を開拓して業績を上げたが、工場の現場で行われていた数々の不正を耳にし、苦しんだ。「告発」を決意したのは06年春。農水省の出先機関などで次々と門前払いにされた末に朝日新聞に情報を持ち込み、ようやく世間の知るところになった。

 法廷では何度か被告席の田中社長と目があった。やつれた顔に、表情はほとんど浮かばない。「生い立ちが貧しく蓄財に走った。財は成したが過信に陥り、人の言うことに聞く耳を失った」。赤羽さんは、田中社長の半生をこう表現した。

 偽装に直接手を染めたわけではないが、自分にも責任の一端がある。そんな思いは消えない。「消費者、食品工場関係者の皆様、申し訳ありませんでした」。閉廷後、記者に囲まれて口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。

 赤羽さんは当初、匿名での報道を望んでいたが、事件が社会問題化したことを受け、「自分の言動に責任をもつために実名で発言したい」と考え直した。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0128/TKY200801280438.html