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2007年11月25日(日) 17時03分

「目安箱」で大学変えます 全入時代に向け広がる朝日新聞

 庶民の声を施策に生かそうと、江戸時代に将軍徳川吉宗が設けた「目安箱」。その大学版とも言える取り組みが広がり始めた。学長に学生や職員が「直訴」できる仕組みだ。間近に迫る「全入時代」や国立大学の法人化で、一層の経営改善を求められている昨今の大学。享保の改革ならぬ平成の大学改革に、学生らの声を生かせるか。

 「学長直行便」。成蹊大(東京都武蔵野市)は05年11月、そう名付けたポスト型の箱を学内3カ所に設置した。

 直行便は、栗田恵輔学長の発案で始まった。今や電子メールが全盛の時代。学生の意見をメールで募る大学は珍しくないが、なぜ本物の箱を置いて手書きの意見を投函(とうかん)してもらうのか。栗田学長は「メールだと、あまり深く物事を考えないで惰性で人に意見を伝えることがあると思った。きちんと字を書いてもらうことに意味がある」。

 原則記名式で、月に2度回収。これまでに240通が集まった。意見にはすべて栗田学長が目を通し、必要ならば関係部署と相談して回答する。意見と回答は学内のウェブで公表される。

 「成蹊大は社会活動やボランティアへの支援策が手薄では」。そんな意見を受け、学内に外部の団体との連絡窓口となる「ボランティアセンター」の設立準備室ができた。「不親切」などの意見が目立った職員の対応を改善したら、学内の調査で学生の不満度がほぼ半減した。成果は表れてきている。

 広島経済大(広島市)は03年12月に意見箱「聞いて学長!」を食堂など学内3カ所に設置。「学生の声を改革に生かしたい」という石田恒夫学長の思いを実現させた。これまでに寄せられた意見は約500件。すべて学長が目を通し、回答と一緒に箱の近くなどに掲示するようにしている。

 山の中腹にキャンパスがあるため、通学に苦労していた学生から改善を求める意見が多く寄せられ、約500台分の駐車場を整備する大規模事業につながったことも。ただ、これだけ集まれば、単なる「わがまま」のような意見も少なくない。同大はそんな意見にも、「懇切丁寧に、学生でもわかりやすいよう回答しています」(入試広報室)という。

 東京大(文京区)は06年7月、小宮山宏総長の発案で目安箱制度を始めた。ウェブ上で書き込む形に加え、象徴の意味も込め、同年8月に本物の箱を三つ設置。

 当初は教職員を想定していたが、徐々に学生からの意見も増えてきた。ウェブも含め、これまで寄せられた150件超の意見のうち、学生が寄せた分は約10件。環境保全のため、「冬は20度、夏は28度」という空調設定の徹底を総長に求める意見や、「煙害」への対応を求める意見など様々だ。

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〈広島経済大の意見箱に寄せられた意見と回答の例〉

※07年8月回収分、一部省略

●雨の日にバスを増やして下さい。

(回答)業者契約に基づいて運行されていますので天候によってダイヤを変えるのは不可能です。雨の日は渋滞したり混雑したりするものです。もう少しゆとりをもって大学に来るようにしてください。

●女子大では、コートが数着入る無料の生徒専用ロッカーが置いてあるので、この大学でも置いてほしい。

(回答)学生数約4000人の個人ロッカーを設置するには、多大な経費と広いスペースが必要となります。設備費と需要のバランスを考慮しても、現段階では計画はありません。コインロッカーを利用してください。

●なぜ喫煙スペースをいい場所にとり、喫煙者を優遇しているのかわかりません。

(回答)ご意見の通りまだ問題はありますが、決して優遇しているわけではなく、灰皿もかなり減らしましたし、屋根のない喫煙所もあります。喫煙スペースについても双方にとってふさわしい場所があれば、ぜひ学生課まで提案をお願いします。

http://www.asahi.com/life/update/1124/TKY200711240262.html