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2007年11月17日(土) 16時01分

赤福:偽装検証 「意見すると首飛ぶ」 元従業員ら証言、前会長に異論挟めず /三重毎日新聞

 伊勢市の和菓子メーカー「赤福」(浜田典保社長)の消費期限偽装発覚から1カ月。今年創業300年を迎えた老舗が、手の込んだ不正を長年続け、消費期限を偽ってきたことは消費者に大きな衝撃を与えた。一方で赤福の元社員らの証言からは、「老舗の信用」と「社風」を背景に不正が積み重ねられていった様相が見える。【飯田和樹、山口知、高木香奈、岡大介】
 □感覚がまひ
 「そんなこと知らんでええ」
 かつて赤福に勤務していた40歳代の元営業社員は、入社して1年ほどしてからだんだん不審を抱き始めた。廃棄処分するはずの売れ残りを「午後4時までに」本社に持ち帰るように指示されることがある。名古屋営業所には製造工程がないはずなのに、冷凍庫や日付を押すスタンプがある。先輩に聞くとはぐらかされた。ある日2人になったとき「実はな……」。「まき直し」など、本当のことを教えられた。「『世の中こんなものか』と思った」と言い、「会社のみんながやっている、と感覚がまひする部分もあった」と振り返る。
 複数の元従業員の証言から浮き彫りになるのは、会社の方針に異論を唱えにくい社風。ある60歳代の元幹部は「みんな(前会長の浜田)益嗣(ますたね)さんに意見すると首が飛ぶと思っていた」と明かす。
 「自分の方針に従わない社員は去ってもらう」。製造分野の40歳代の元社員は5年ほど前の11月、伊勢市内で開かれた社員大会で、当時社長だった浜田前会長が同市周辺の従業員約200人を前に話した言葉を覚えている。「幹部はイエスマンで固められていた。会社のやり方についていけない人は辞めるしかなかった」と話す。
 複数の元社員は取材に対し、不正を後ろめたく思う一方で、老舗企業で働いていることを誇りに思い、会社への思い入れの強さを語った。
 営業畑の元社員は「偽装は承知していたが、『赤福はいい商品』という意識はあった。赤福の社員は日常的にお金を出して赤福餅を買っていた。もちろん冷解凍なしの商品に限ったが……」という。40歳代の製造分野の元社員も「益嗣さんは『商品が足りないのは遠くからやってくるお客様に失礼だから欠品をなくそう』と話していた。お客様のことを大切にしていた」と尊敬の気持ちをのぞかせる。
 □老舗の体裁
 「よく管理された詐欺行為」。赤福で営業を担当していた40歳代の元社員は皮肉を込めて自らも加わっていた一連の偽装行為を振り返った。「赤福は体裁を気にする会社だった。老舗だから当然かもしれんけど」。「作りたての商品をその日のうちに提供する」という「体裁」と、もうけを得るための「効率性」の両方を求めたことが、偽装のシステムの背景にある。元社員はそう考えている。
 伊勢市の本社工場で作られた赤福餅は各小売店に運ばれるとともに、名古屋営業所に運ばれて冷凍された。ここで解凍され、高速道路のサービスエリアなどに出荷されていた。売れ残りの餅も同営業所や本社工場に運ばれ、まき直しの後に出荷された。この元社員は「冷解凍のマニュアルはなかった。先輩に口頭で教えてもらった」と話す。
 その一方、品質管理・在庫管理は徹底されていた。商品展示を小売店に任せず、営業担当者が手掛けた。担当者は小売店で赤福餅を塔のように積み上げる。関係者はこれを「赤福タワー」と呼んだ。タワーを作る際、消費期限が近い商品ほど上になるよう、スタンプを見て、細心の注意を払った。売れ残りを回収する時も、点や棒を使った暗号をよく見て2度「まき直し」をしないように気を使った。食中毒を出さない、実態が発覚しない努力は徹底しており、県の担当者は「きわめて巧妙なシステムだ」と舌を巻いた。
 □4回見過ごす
 8月15日、名古屋市中区の東海農政局に設置してある「食品表示110番」に1本の電話が入った。冷解凍工程を使った「まき直し」など、赤福の消費期限偽装の手口を具体的に説明する内容だった。農水省職員が一消費者として赤福餅を購入、約1カ月間、科学的分析などを加えた上、9月19日、県、大阪市、名古屋市と合同調査に入った。
 農水省と共に調査に入った県は当初「問題ない」と判断していた。県には農水省に情報が入るより前の昨年8月と今年1月、「まき直し」や「先付け」を指摘する通報があり、赤福本社工場で聴き取り調査もしていた。しかし赤福側が「売れ残りの製品のまき直し行為などはしていない」と否定したため、「問題なし」という結論になった。農水省との合同調査とその後に単独で行った調査を含めると、4回にわたって偽装に気付く機会を逃したことになる。「300年もの歴史のある店がそんなこと(偽装)をするはずがないという思いがあった」と担当職員の一人は無念そうに打ち明ける。
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 ■赤福の偽装表示
 ◆偽装の内容
 ◇(1)売れ残った商品の包装をはがし、包装し直す「まき直し」を行い(2)かつ、翌日以降の製造日を刻印する「先付け」を行った商品(謹製=製造日の後ろの「・」「—」が目印)
 ◇製造日の翌日以降の製造を刻印する「先付け」を行った商品(謹製=製造日の後ろの「—」が目印)
 ◇冷解凍を経た商品。冷凍前後に先付けしたものや、まき直ししたものもある(消費期限の後ろの「・」が目印)
 ◇出荷当日に生産した偽装のない商品(特別な目印はない)
〔伊賀版〕

11月17日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071117-00000252-mailo-l24