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2007年11月16日(金) 08時00分

いじめ12万件 増すネット攻撃、陰湿化産経新聞

 平成18年度、いじめの認知件数が6倍にも跳ね上がった。だが関係者からは、これでも実態には即していないと疑問の声が上がっている。相次いだいじめ自殺で批判を浴びたことから、教育委員会や学校が神経質になり、「無理に数字を出した結果」との意見も根強い。ネットなど学校以外で、より陰湿ないじめが行われているとの指摘もあり、教育現場は焦燥感を募らせている。(櫛田寿宏、慶田久幸)

 ■実態と乖離

 「調査の結果は実態に即していない。実際には何倍もの数のいじめが行われている」

 9年前に一人娘がいじめを苦に自殺した横浜市の小森美登里さん(50)は憤る。

 小森さんはNPO法人(特定非営利活動法人)「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)を立ち上げ、全国でいじめをなくすために講演活動をしている。訪れた学校で教員を対象にアンケートを実施したところ、90%が「過去3年以内に自分の学校でいじめがあった」と回答した。

 小森さんは「教師がいじめを見付けて報告すると、発見したことは評価されず、いじめがあったとして評価が下がる」と指摘。「匿名でサンプル調査を行った方が実態に即したものになる」という。

 ■ためにする調査

 ある校長は「学校や子供の様子は一昨年(17年度)とほとんど変わっていない」と語る。「いじめゼロと答えておいて、何かあったらまずいので何でも記入しておこうということではないか」として、学校が神経質になっている表れとも。

 都内の公立小教師は、この結果を見て「一般の人は学校が大変なことになっている、と誤解するのではないか」と心配を口にした。

 北海道滝川市では、平成17年に小6女児がいじめを訴える遺書を残して自殺したが、教育委員会がいじめと認めず放置したことが昨年に発覚。いじめ自殺を過去7年連続ゼロとした調査の信頼性が揺らぎ、見直した。

 「今回の調査は異常な雰囲気だった」というのは別の公立小教師。「ゼロと答えると、地区の教育委員会から『本当か』と問い合わせが何度も来て、無理やり数字を出させようとしていた」。

 問題が起きるたびに行われる調査については、「“調査のための調査”より、子供と接していた方がいじめ防止策になる」と批判した。

 ■パケット定額制

 今回、いじめの方法についても調査が初めて行われた。ブログ掲示板への書き込みや悪質な合成写真、仲間外れのチェーンメールなど、ネットいじめについては教育現場から「皮膚感覚では5、6倍はある」「パケット定額制の導入と、携帯電話の高機能化が進んだ時期と重なる」といった指摘も出ている。

 神奈川県の引地孝一教育長は「他人のアドレスを使う『なりすましメール』や、不幸の手紙の現代版といえるチェーンメールなど、実態が把握しにくい世界でいじめが行われている」と危惧(きぐ)し、携帯電話を販売する企業が迷惑メールの防止に取り組む必要性を説く。

 校外で特定の児童生徒を無視するなど、教員が把握しにくい形のいじめも増えており、「大人がネットいじめや校外でのいじめの実態を知らないと、見過ごしてしまう」と警告している。

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 河上亮一日本教育大学院大学教授の話「ここ20年ほどのいじめに関する分析がなされておらず、今回の調査も『調べて(その結果を)どうするの』というのが率直な感想だ。件数は大幅に増えたが、状況は何年も変わっていない。何人か集まれば必ずトラブルは生じる。心の問題として対処すべきいじめは一定数ある。暴力行為や恐喝は犯罪として対処すべきなのに、教師が個人プレーで対応させられているのが現状だ。いじめ対策としては出席停止を含めシステムを作る必要がある」

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 深谷昌志東京成徳大子ども学部長の話「これでも氷山の一角だ。いじめは大人に隠れてするものだから、細かいものまで挙げると学校は本当の数を把握できないし、いじめのない学校はあり得ない。いじめは子供の様子が変わるのに合わせて、常に新しい形が登場するので先が読めず、どうしても対応が後手に回ってしまう。保護者と教師が連携して緊密に情報を交換しあい、保護者は小さな変化も連絡して、教師もきちんと受け止める信頼関係をつくる以外に対策はないだろう」


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