記事登録
2007年11月16日(金) 00時00分

船場吉兆VS.農水省の舞台裏、「潔さ感じられず」朝日新聞

 食品偽装がまた刑事事件に発展した。16日、大阪府警の強制捜査を受けた高級料亭「船場吉兆」(大阪市)は、農林水産省や福岡市の調査に「パートの独断」「仕入れ業者にだまされた」と釈明を続けてきた。

  

      ◇

 「黒豆プリンなどの期限を延ばして売っている」。福岡市中央保健所に匿名の電話が入ったのは9月11日だった。保健所の職員が市内百貨店に入る船場吉兆の店舗の店員から事情を聴いた。

 店側は「早く食べていただくため、消費期限内に収まる張り替えです」と話した。市はいったん了承した。

 10月18日、「総菜でも期限を延ばしている」と再び電話が中央保健所に。今度は書類の提出を求め、日々の納品数や販売数を記した日報のデータを職員がパソコンに落とした。「あれ、これおかしい」。すぐに、黒豆プリンの納品数と販売数が、期限切れ後も売っていなければ計算が合わないことに気付いた。

 「期限切れを売っていませんか」。店長を務める湯木尚治取締役に迫ると、同月26日にようやく表示の偽装を認めた。

 食品偽装を監視する農水省表示・規格課は船場吉兆の経営陣へ不信を募らせていた。

 店舗の帳簿には商品の仕入れ、売り上げ、繰り越し在庫などが記載され、繰越数が雪だるま式に増えていた。「普通の人が見れば、おかしいと分かる」(同課)。この記録は本社にもファクスで送られていた。だが、店長の湯木尚治取締役は、同省の調査や会見で「現場のパートの独断」と繰り返した。

 同省幹部は「不正の責任をパートに押しつける行為がまかり通れば、非正規の従業員を多く抱える食品産業の経営責任も企業倫理もあったものではない」と危機感をあらわにした。

 会社自体に偽装体質があるのでは——。疑念を持った同省は、大阪市の船場吉兆本店で売られている商品を重点的に調べた。その結果、「但馬牛」を扱っているはずのない九州の取引先にたどりつき、ブロイラー専門の京都の鶏肉小売業者からは「『地鶏』は一切、扱っていない」との証言を得た。専門業者によると、最高級ブランドである「但馬牛」の名を付ければ、船場吉兆が実際に仕入れていた九州産より15〜20%ほど高く販売できるという。

 同省は今月9日に手渡した改善指示書とともに疑問点を質問状にして船場吉兆に回答を求めた。納得のいく説明はまだないという。赤福の改ざん問題では、売れ残り商品の再使用を否定していた赤福側に質問状を送ると、6日後に全面的に不正を認める回答があった。

 同省幹部は船場吉兆と赤福を比較して言う。「どちらもブランドにあぐらをかいてもうけを求めた結果、不正に手を染めた。だが、赤福には、一度裸になって出直そうという潔さがまだあった。船場吉兆には全くそれが感じられない」

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200711160112.html