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2007年11月13日(火) 10時02分

デジタル歳時記 裏磐梯・満天の星ツカサネット新聞

紅葉たけなわの裏磐梯に写真を撮りに行った。秋の木の葉は、なぜ美しくなってそして散ってゆくのだろう。色とりどりの木々に囲まれて、そんなことをずっと考えながら撮っていた。五色沼の水面に浮かんだ落葉は、風下の岸辺に吹き寄せられて漂っていた。深いエメラルドグリーンの湖面に漂う落葉は、青い光の幕に遮られてその姿をよく見ることができない。

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水面のうねりと木々の陰に陽の光が遮られたとき、その刹那、水面の反射光が消えて落葉達がその全容を表す。細かい針のような松の葉の筏の間に、色とりどりの葉が浮かんでいる。赤や黄色や金色の役目を終えた数々の葉が肩を寄せるように集まっている。彼らは散ってもなお美しい。

葉は夏の間、表面から水を蒸発させて根からの水の吸い上げを促している。しかし、やがて冬が近づいてくると、今度は根からの水の吸収が悪くなるため、そのまま蒸発を続けると木の水分が失われてしまうので、葉は養分を分解して根などに返し、自らは地上に落ちてゆく。役目を終えて散り際に輝きを増して去ってゆく。見ようによっては死化粧だが、その暗さは微塵もない。その意味では落葉たちは幸せである。ましてや、散ってもなお美しい姿は羨ましくもある。残念だが、人はなかなかそうはいかない。

一本の木が生まれ朽ちてゆくまでに、どれだけの葉が去ってゆくのだろう。一本の木は、おびただしい数の去っていった葉っぱ達に支えられている。そして、人はそれらの木々に支えられて生きている。さらに、地球もまた一本の巨大な木のように、役目を終えて去っていった多くの人々に支えられている。アーサー・C・クラークの小説『2001年宇宙の旅』の冒頭にこんな一節がある。

「今この世にいる人間のひとりひとりの背後には、三十人の幽霊が立っている。それが生者に対する死者の割合である。時のあけぼの以来、およそ一千億の人間が、地球上に足跡を印した。この数字は興味深い、というのは、奇妙な偶然だが、われわれの属する宇宙、この銀河系に含まれる星の数が、またおよそ一千億だからだ。地上に生をうけた人間ひとりひとりのために、一個ずつ、この宇宙では星が輝いているのである」(伊藤典夫訳)

そういえば、地面一面にちりばめられた楓の葉は満天の星のようにも見えた。


(記者:Ken Gillman)

■写真
写真撮影:Ken Gillman記者

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