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2007年11月13日(火) 10時37分

自虐批判で一度は倒産 信念貫き新社再出発琉球新報

 【東京】「自虐度が高い」と批判され、その後倒産した教科書出版社の編集者が曲折を経て再び出版社を設立した。日本書籍新社顧問の池田剛さん(63)。同社の教科書は、沖縄戦の「集団自決」について「軍は手榴弾を配るなどして集団的な自殺を強制した」と軍強制を明確にしている。「たった3行の文章でも、そこには執筆者や編集者の思いが詰まっている」。教科書の記述の大切さを、池田さんは身をもって感じている。
採択激減
 前身の日本書籍は、歴史教科書で「中国侵略」「従軍慰安婦」などの用語を使い、日本軍の戦争責任を明確化していた。都市部に強く、1990年代の採択部数は歴史だけで約23万冊。東京は全23区で採択され、歴史分野の大手としての地位を保っていた。
 97年に「新しい歴史教科書をつくる会」が発足し、「日本書籍は自虐度が高い」と批判が始まった。99年に産経新聞が掲載した教科書通信簿では「つくる会」の書籍を扱う扶桑社は五段階評価で「5」、日本書籍は最低の「1」の評価が付けられた。
 分岐点は4年に一度訪れる教科書採択年の2001年。広島はほぼ全域で不採択となり、全区を抑えていた東京は2区まで激減し、売り上げは半減した。当時取締役編集部長だった池田さんは社内から「責任の一端は編集にある」と追及された。04年1月、会社は倒産した。
 心労が重なり、会社の前で心筋梗塞(こうそく)で倒れた池田さん。しかし株主の共同印刷や執筆者から支援が集まり、子会社として再出発することになった。現在は中学社会だけを扱う。

証言を聞き取り
 新社になっても、日本軍の責任を明確化する書きぶりは変わらない。沖縄戦について「日本軍にスパイ容疑で殺されたり、『集団自決』を強制された人々もあった」と記し、さらに注釈では「軍は民間人の降伏も許さず、手榴弾を配るなどして集団的な自殺を強制した」と詳細に説明している。編集に当たっては執筆者が沖縄入りし、研究者や体験者から直接聞き取りを行ったという。
 今回の検定問題を池田さんは「今までの検定では通ってきた。何らかの政治介入があったはずだ」と指摘し、「右傾化の流れが後ろ盾になっている。県民大会はすごいパワーだった。新しい証言も出てきた。検定意見の撤回しかない」と話す。
 全国の私立中学約700校中、3割を超す約230校が同社の教科書を使用する。地区の教育委員会が一括で採択する公立と違い、私立は各学校の判断で選ぶことができる。「現場教諭の意見が反映される学校に強い」ことが池田さんの誇りだ。
 新版をつくったとき、重要な記述は編集者と執筆者で30回近く会議を開き、一週間の合宿も行った。「たった3行の記述でも、そこに至るまで相当議論する。子どもたちには真実に触れてもらいたい。頑張る教科書がないといけない」。池田さんは今後も教科書づくりに信念を貫くつもりだ。(与那嶺路代)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071113-00000013-ryu-oki