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2007年11月11日(日) 08時02分

出題、事前に知りメール 司法試験考査委員の元慶大教授朝日新聞

 新司法試験の出題と採点を担当する法務省の「司法試験考査委員」だった元慶応義塾大法科大学院教授の植村栄治氏(58)=8月に依願退職=が、試験1カ月前の今年4月、教え子の学生たちに流したメールの中で「重要判例」と紹介した最高裁判例について、本試験に出題される予定を事前に知っていたことがわかった。別の考査委員から事前に聞いていたことを植村氏が朝日新聞の取材に認めた。同氏は試験問題漏洩(ろうえい)の意図はなかったと否認しているが、多くの法科大学院の教授らは「明らかに秘密漏洩。国家公務員法の守秘義務違反にあたる」と批判している。

植村栄治元慶応大学法科大学院教授が司法試験1カ月前に流したメールの文面

 植村氏は行政法を専門とし、昨年11月、法務大臣により司法試験(公法系)の考査委員に任命された。今年4月11日、慶応大学の法科大学院の百数十人の学生にメールで「平成18年度重要判例解説」が刊行されたことを紹介。「そのうち行政法関係で重要そうな判例を幾つか選んで判旨ポイントを作りました」と述べて六つの判例を示し、「あと1月(ひとつき)、直前の追い込みをがんばって下さい!」と書き添えた。六つの判例のうち、憲法の租税法律主義と国民健康保険料の関係を論じた昨年3月の最高裁判例が、5月15日に実施された本試験で、短答式の問題の素材となった。

 その後、考査委員には自粛するよう要請されている受験指導を植村氏が行っていたことが発覚。6月29日、植村氏は考査委員を解任された。ただ、法務省が出した処分の発表文では、「判例要旨をとりまとめたものなどを受験生に送付したこと」などを解任理由にしているが、植村氏が事前に短答式の問題を知っていたことは触れていなかった。法務省は8月、設問そのものを示したわけではないなどとして、慶応の受験生に有利な結果が出たとは言えないとし、再試験をしないことを決めた。

 植村氏は今月8日に朝日新聞の取材に応じ、メールを送った時点で、最高裁判例が本試験に出題される認識があったと認めた。法務省によると、憲法や行政法を出題範囲とする公法系の問題を作る過程で、憲法を専門とする別の考査委員から、その判例を出題すると聞いていたという。

 植村氏は4月11日のメールについて、「重要なので試験にかかわらず知っておいて欲しくて紹介したが、『(試験に)出るよ』とは書かなかった」と弁解した。

 この問題の正答率は、慶応の受験生が26.57%だったのに対し、慶応以外は4.52ポイント下回る22.05%。公法系の短答式は40問。朝日新聞が入手した前半20問の正答率比較グラフで難問を比べると、この問題での慶応の正答率の高さが目立つ。

 こうした事実関係は、法務省も把握しているが「受験生であれば当然知っているべき判例。事前にメールで示しても『出題に関連する』とは明示しておらず、漏洩には当たらない」としている。

 複数の法律家は「4人に1人も正解していない。そのような難問で他の受験生よりポイントが高いということは、メールが慶応の受験生に有利に働いたということだ」と指摘する。

 8日開かれた参議院法務委員会では、鳩山法相が「出題された問題を見て(判例を)知っているか知らないかは重大な境目。とんでもないメールだ」と答弁し、再調査する意向を示した。同委員会では今後、植村氏の参考人招致を検討する。

 植村氏の行為を巡っては、全国の弁護士や大学教員ら33人が8月、「事実関係を明らかにするべきだ」として国家公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで東京地検に告発している。

 法務省は今回の問題を受け、08年の考査委員のうち法科大学院教員の数を大幅に減らす方針を決めた。

http://www.asahi.com/national/update/1110/TKY200711100266.html