記事登録
2007年11月10日(土) 07時51分

米価下落…大国新潟、危機感 安定対策制度に“誤算”/農村票めぐる攻防も産経新聞

 「こんなはずではなかった…」。今年のコメの収穫を終えた新潟県内の農家からため息が漏れている。今年度は補助金を大規模農家などの担い手に重点化する「品目横断的経営安定対策」が導入された“戦後農政の転換期”の初年度。だが、折からの大幅な米価下落の直撃で、収入増を目指した同制度の加入者は出ばなをくじかれた形だ。コメ王国での“異変”を追った。(花房壮)

 「収入は前年より数千万円のダウンだ。今後は小作料の支払いもあり、借金しないと年が越せない」

 今年2月に妙高市で産声を上げた農事組合法人「米ファーム斐太」の横尾嘉明代表は、厳しい口調で話した。

 同法人は収穫量約5000俵のうち、8割を農協に出荷したが、コメ需要の低迷予測から、農協から支払われる仮渡し金(販売価格の前金)は、一般コシヒカリ60キロ当たり過去最低の1万円にとどまり、前年を5000円も下回った。

 「高い肥料などでコストをかけて作っても、米価が下落したままだと担い手側の意欲も落ち、若い人も離れていく」

 横尾さんは今後への不安を募らせる。

 米価下落などによる収入減少時に補填(ほてん)される品目横断的経営安定対策の評判は、農業現場で今ひとつのようだ。

 新潟県の場合、加入率は6月末で40%。目標50%を下回り、現場の非加入者からは「小規模農家の切り捨て」といった批判が少なくない。また、加入者からもここにきて不満が強まっている。同対策は過去の平均収入を下回った場合、収入減少分の9割を補填する仕組みだが、農家と政府で積み立てている補填原資は最大10%の減収分しか想定しておらず、それを超える大幅減収には対応できない。実際の補填時期は米価が確定する来春以降となるが、「補填措置だけで減収分をまかなうのは無理」(下越地域の農家)といった声が少なくない。

 食生活の多様化でコメ消費量が伸び悩む中、JA新潟中央会ではコシヒカリ一辺倒から、安い業務用米などの作付け拡大を促す戦略に切り替えつつある。しかし、長期的なコメ余りによる生産調整で作付面積が減少すれば、「結局は価格が高いコシヒカリに依存せざるえず、多品種化の取り組みは本格化できない。悪循環としかいいようがない」(JA新潟中央会幹部)と厳しい現実が待ちかまえている。

 こうした農家の苦境を受け、国会での議論も次期衆院選をにらんでヒートアップしている。7月の参院選で全農家を対象とする戸別所得補償制度を打ち出し、農村票を大量獲得したとされる民主党は10月、臨時国会で参院に関連法案を提出。目玉は総額1兆円の補償額だ。

 「大規模農家の担い手に補助金の支出を手厚くした政府・与党の現行制度に比べ、条件付きながら全農家を補償対象とした点は単純明快で、不満を抱く小規模農家の支持を得やすいのでは」とJA新潟中央会幹部は分析する。ただ、国の農林水産関係予算が年間3兆円を割る中で、「1兆円もの原資をどうやって捻出(ねんしゅつ)するのか」と実現可能性に強い疑念を示す。

 一方、自民党側も政府備蓄米の買い増しを急遽(きゅうきょ)決定するなど巻き返しに躍起だ。しかし、農業の現場からは「あくまで一時的なカンフル剤であって、来年以降も予想される価格低迷への抜本策にはなりえない」と冷ややかな見方がもっぱらだ。下越地方の農業生産法人代表は「小規模農家を支援しても長期的には高齢化などで農業離れの流れを止めることは無理。大規模農家への支援を重点化する線を維持しながら、制度への参加メリットや補填を手厚くする方向で見直しを進めてほしい」と要望する。

 自民、民主両党による「大連立」構想が浮上するなど風雲急を告げる東京・永田町。次期衆院選で政権交代のカギを握るといわれる農村票をめぐる攻防は激化している。そんな中で、上越地域の農業男性はこうつぶやく。

 「農業離れや耕作放棄地の拡大は確実に進み、待ったなしの問題。どうやったら農村を維持できるのか、国民的議論を真剣に深める時期にきている」

                   ◇

 品目横断的経営安定対策 諸外国との生産条件の格差是正と担い手の農業経営の安定化を図るため、全農家を広く補助してきた従来の制度から、一定の面積要件などをクリアした農家や集落営農組織に支援を重点化した。対象農産物は米、麦、大豆などの5品目で、認定農業者の面積要件は4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)、集落営農組織は20ヘクタール以上(いずれも地理的条件で面積緩和あり)。収入減少緩和対策として生産者と国が1対3の拠出割合で収入減少分の9割が補填(ほてん)されるほか、融資の無利子化、農地集約への助成などが受けられる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071110-00000000-san-l15