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2007年11月09日(金) 00時00分

(4)里親にも研修が必要読売新聞


 「警察官とメル友なのよ」

 神奈川県大和市に住む清水三和子さん(63)はいたずらっぽく笑った。虐待を受けるなどして、親元で暮らせなくなった子どもたちを育てる養育里親になって16年。これまで30人近くの子どもを預かってきた。家出をしたり万引きをしたり、子どもたちが様々な問題を起こすため、すっかり地元の警察官と親しくなったというのだ。

 様々な虐待を受けた子どもがやってくる。「おばちゃん、このうちごはんある?」。家に来て開口一番そう言った3歳児。殴られたためか、顔がジャガイモのように変形した1歳児。放置されていたのだろうか、ハンバーガーを10個食べても「これ、ごはんじゃないよね」とけろりと言ってのける過食症の小学生。性的虐待を受け、妊娠した高校生も。

 「子どもは初め、私を試そうと挑発する。せっかく作ったごはんを捨てたり、『殴れよ』と詰め寄ったり。でもその挑発にのったら負け」。清水さんは子どもたちを抱きしめ、語り合ってきた。

 「地域の人々の温かい見守りがなければ、私たち夫婦だけでは育てられない」と話す。学校や病院に出かけ、里親制度について説明し、子どもへの理解を求めることから始めてきた。

 「大人を信じられなくなった子どもたちが、もう一度、信じる力を得てくれればと願って里親を続けてきた。虐待を受けた子どもたちが生きていけるよう、命のリレーをしているのだと思っている」

 児童虐待の増加によって、国は2002年に虐待を受けた子どもを育てる「専門里親」を新設。「児童虐待援助論」「発達臨床心理」などの科目を学び、児童福祉施設での実習を経て認定される。ただ、昨年3月時点で、68人の専門里親が80人の子どもを育てているに過ぎない。

 そのため、虐待を受けた子どもの多くは、養育里親によって育てられている。

 「かんさい里親ネット」(大阪府)の代表、志賀直子さん(56)は「専門里親でなくとも、虐待を受けた子どもを育てる際の注意点など、専門的な研修を受けられるようにすべきだ」と話す。また「里親は人数が少なく孤立しがち。子育ての悩みや疑問があっても、事情を分かってすぐに話を聞いてくれる仲間が周囲にいない人もいる」と訴える。

家庭訪問や交流 NPO、支援の動き

 児童相談所の担当者が家庭訪問などをして里親をサポートすることになっているが、虐待の早期発見や保護に忙しく、きちんと対応できていない地域もあるようだ。そこで独自に里親を支援しようという民間団体も出てきた。

 NPO法人「里親子支援のアン基金プロジェクト」(東京)は来年4月、家庭訪問の研修を受けた里親経験者による訪問事業を始める。

 事務局長で、里親経験者でもある坂本和子さん(61)は「虐待を受けるなど複雑な背景を持つ子どもたちを育てるとき、里親の愛情だけでうまく乗り切れるとは限らない。研修や家庭訪問、里親同士の交流など様々な支援が必要だ」と話す。

低い日本の委託率


清水三和子さんの家には、一緒に過ごした子どもたちの写真がたくさん残っている(神奈川県大和市で)=小坂佳子撮影

 児童虐待の増加に伴い、厚生労働省は「虐待を受けた子どもは、家庭的な雰囲気の中で育つことが必要」として、里親を増やしていく方針だ。

 里親制度は、児童福祉法に基づき、都道府県や指定都市などが親元で暮らせない子どもの養育を委託する制度。里親には子どもの生活費や里親手当などが支給される。

 厚労省によると、戦後、戦災孤児などが減るとともに里親も減少したが、近年の虐待の増加で、里親への委託も増えている。2005年度には7737人の里親が登録、うち2370人が3293人の子どもの面倒を見ている。

 保護の必要な子どものうち里親に委託される割合(05年度)は9・1%で、70%を超すアメリカや60%のイギリスなどと比べて低い。厚労省は09年度までに、委託率を15%にする目標を掲げている。


http://www.yomiuri.co.jp/feature/orange/fe_or_07110901.htm