記事登録
2007年11月08日(木) 00時00分

インクジェットプリンターの新製品続々、店頭プリントとの対決色鮮明読売新聞

 セイコーエプソンとキヤノンが年末商戦に向けてインクジェットプリンターの新製品を相次ぎ発表した。特徴は写真補整機能の強化。以前にも増して写真印刷を前面に打ち出してきた。既に2000万台以上が稼働中といわれ、販売台数の大幅な伸びが期待できないプリンター市場を写真印刷で底上げしたい考えだ。

目玉は写真補整と印刷


セイコーエプソンの「ナチュラルフェイス」機能。プリンターが自動で小顔に印刷してくれる

 秋の新モデルは目新しい新機能が少なく、デザインや使い勝手も含め、昨年モデルからの進化がわかりにくい内容となったが、両社が目玉に掲げたのが、デジカメ写真をきれいに印刷する写真補整機能だ。従来から同様の機能はあったが、強化を図り、前面に押し出してきた。

 デジカメ写真を印刷するとき、画像の中から人物の顔の部分を検出、さらに、その写真がポートレートなのか、風景なのか、夜景なのかといったシーンを判別、これらの分析結果から逆光や色かぶりを補整し、コントラスト、鮮やかさ、肌の色などを調節。人が見て好ましいと思われる色に修整して印刷する。最近のコンパクトデジカメが備える顔検出やシーン別設定機能をプリンターに仕込んだと考えればわかりやすい。

 セイコーエプソンは、カラリオシリーズに「ナチュラルフェイス」という写真館顔負けの修整機能まで搭載してきた。これは、検出した顔の部分を横方向に縮め、「小顔」にして印刷する機能だ。レンズを通した人物像は肉眼で見たときより太って見えるので、自然に見えるよう0・5〜1・5%ほど細めにするのだという。肌の色を白く印刷する「美白」機能も付いている。こうなると、プリンターの補整機能を超え、フォトレタッチソフトの領域まで踏み込んできたといってもよさそうだ。

 これらの機能は、添付のユーティリティーソフトをパソコンにインストールして使うのだが、プリンター本体にも同じ機能が組み込まれており、デジカメをプリンターにつないだり、メモリーカードから直接印刷するときにも使える。

プリンター市場は頭打ち

 メーカーが写真印刷にこだわるのは、プリンタービジネスの活路を消耗品需要に見いだしているからだ。国内のインクジェットプリンター市場は2006年で約639万台。03年頃からはほぼ横ばいで、今年の出荷台数も昨年並みと見込まれている。インクジェットプリンターの印字品質や速度は十分なレベルに達し、家電化が進んだことでスペックにこだわるユーザーも減り、買い替えサイクルも伸びた。これをカバーしてきたのが、採算性の高いインクカートリッジや専用用紙といった消耗品の販売増だ。メーカーは写真の印刷枚数を増やすことで消耗品需要を喚起、成長の持続を考えている。

 さらに、新たに取り込みを狙っているのが、デジカメ写真をDPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)店でプリントしている消費者。店頭プリントは、インクジェットプリンターの印刷に比べ、1枚当たりの単価が安い、パソコンにつなぐ手間が不要、きれいといった利点が支持され、急速に台頭しつつある。調査会社のデータによると、05年の家でのプリントを100枚とすると、店頭プリントは76枚だったが、今年は93枚にまで増えており、今後も伸びが見込まれる。

 プリンターメーカーは用紙価格を改定、L判1枚の印刷コストを店頭プリントの半分程度、15円前後まで下げてきた。新しい写真補整機能も、店頭プリントの機械が備える補整機能を意識したもので、今年は店頭プリントとの対決色を鮮明にしてきたと見ることができる。

 ネットプリントとの競合も避けては通れない。自宅のパソコンから画像ファイルをネット経由でサービス会社に送り、プリント結果を郵送で受け取るサービスだ。まだ利用者は少ないが、印刷品質は店頭プリントと同等、コストはL判1枚が5〜6円程度からと安い。

 デジカメの普及により、ユーザーの写真撮影枚数は増加しており、プリントのパイ自体は大きくなっている。今のところ、店頭プリントとそのパイを奪い合うという構図にはなっていないが、将来、この撮影枚数が頭打ちになったとき、プリンターメーカーは、戦略の見直しを迫られることになるかもしれない。(フリーライター・南部健司/2007年10月24日発売「YOMIURI PC」2007年12月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20071108nt0b.htm