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2007年11月07日(水) 11時13分

パンプキンちゃん置き去り事件から見えてくるものツカサネット新聞

今年後半、一番話題にもなり、不可解さが人々の心に残った事件といえば、オーストラリア・メルボルンの駅構内に3歳の女児が置き去りにされ、後に置き去りにしたのは父親で、この子供の母親を殺害して車のトランクにつめ、家の前に放置していたことがわかった事件だろう。連日新聞やテレビで報道がなされ、被害者のプライバシーも含め三面記事的な興味で大手新聞もテレビも突っ走り、同時にニュージーランド警察の捜査のまずさは大きく批判の対象ともなった。

9月15日土曜日朝の8時、メルボルン駅で父親を探し、母親を探してうろうろする3歳児のアジア系女児が通りかかりの人や警備員に保護される様子をうつした防犯ビデオは、何度も何度もテレビの画面で報道される。女児が着ていた子供服が、ニュージーランド製Pumpkin Patchの商品だったことから、オーストラリア警察からパンプキンと名づけられたこの少女をめぐり、第一報は、オーストラリア国内に親戚などがいて、行き違いになったのでは、あるいは、母親が事情で姿をくらましたのではというような報道であった。だが、そのうちに、この少女を置き去りにした中年男性の防犯カメラの映像が出てくる。どうやら父親らしき人物で、その足で空港からアメリカ、ロスアンジェルスへ向けて出国済みであるという。

この時点で月曜日くらいにはなっていただろうか。オーストラリア側から母親探しを依頼されたというようなねぼけ眼風のスタンスで、ニュージーランド警察は母親を探し出す。家族が住んでいた家には同居のフラットメイトがいたのだが、その家族を引っ越しさせたりしながら、母親が女児と一緒に、一時父親から別居するので引っ越していたウエリントンの引越し先などをあたっていた。見つからない。

新聞報道で、母親の安否が気遣われるというような、あいまいだが、死を臭わせる報道があった直後、水曜になってようやく、警察が捜査をしていたはずの家族の借りていた家のまん前に路上駐車してあった、父親所有のホンダ車のトランクから母親の遺体が発見された。

最初にオーストラリア側が3歳のQianちゃんを発見し、父親と見られる人物が海外に出ている時点で、何らかの手を打てたようにも思うが、彼らはなぜか子供の本名すら後日にならないと公開しないどころか、事件が大きく展開していく中でも、アジア人の3歳の女の子をパンプキンちゃんと愛称で呼ぶことをやめなかった。この点に関してニュージーランド側から疑問視するむきもある。

しかし、殺人事件はニュージーランド国内で起こったこと。孤児はニュージーランド市民であり、そのケアをすべきはニュージーランド側である。ニュージーランド警察は特に海外からの圧力でのろのろと捜査を開始したときには、容疑者はオーストラリアさえ通過して、アメリカへ逃亡済みである。

この家族には長い長いDV(ドメスティックバイオレンス)の記録があった。自称タイチーマスターの父親Xueは中国語の新聞社を持ち、コミュニティではちょっと知られた人物であった。しかし昨今では借金がかさみ、前妻との間の娘を中国から呼び寄せていても、絶縁状態。若い後妻は別に浮気相手を作り、またその詳細をweb上でブログに写真入でこまごま書かれ、第三者にもそのことが知れ渡り、「顔をつぶされた」と恨んでいた。

今回の報道で興味深かったのが、中国人コミュティ側の報道である。以前にも、全く新移民がかかわった事件がなかったわけではない。移民と一口にいうが、3代目にもなれば、彼らは移民ではもうない。彼らは英語で考え、英語を母国語として当地で生まれて育ったアジア系ニュージーランド人である。アジア系現地人は問題が起こると口を閉ざしたものだった。彼らは親や祖父母の世代が苦労して築いてきた現在のアジア人の位置を引き摺り下ろすような行動は慎んだものだった。この層のアジア系を代表するような言葉に「静かなアジア系」という言葉があった。少なくとも一昔前までは…。

しかし、この時代である。いたるところに監視カメラがあり、物事は動画としてネットにテレビにどんどんさらされる。個人でブログを書くときに、メディアリテラシーなんか考えている人がどのくらいいるのだろう。個人情報しかりである。

英語が苦手で警察に重要な情報を匿名で届け出ることができない、警察への信頼もない中国系新移民たちは匿名で書き込みのできる中国語ベースの掲示板にへばりつき、あることないこと書きたてた。その中から拾った断片的な情報は、大手新聞やメディアの手に渡り、家庭内のDVの様子、不倫、ブログなどのキーワードが、にぎやかに紙面を飾っていった。

9月一杯はタブロイド風に、あるいは警察批判に、世の中の人はたのしく露悪趣味な新聞を読んだことだろう。10月に入り、ニュージーランド政府は大急ぎで、パンプキンのおばあさんを中国から呼び寄せた。同時にそれまでオーストラリアの家庭で面倒を見てもらっていたパンプキンをニュージーランドへ連れ戻す。家庭裁判所はものすごいスピードでおばあさんに親権を譲り、全ての滞在費、ビザの問題を解決して、あっという間にパンプキンちゃんは晴れて中国へおばあさんと一緒に戻っていき、悲劇の中にも、めでたしめでたしと結論づけられてしまう。まるでこれ以上この件に関して税金の無駄遣いはできませんというように。父親はアメリカ国内を逃亡中と報道されたまま。

この先、この父親が逮捕されることがあるのだろうか。


(記者:大空)

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