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2007年11月06日(火) 00時00分

(1)暴行…救えなかった命読売新聞


 岡山県倉敷市のアパートで今年1月、母親と暮らしていた光中翔(かける)ちゃん(当時4歳)が、のどに異物を詰まらせて窒息死した。のどには七味唐辛子が約4・5グラムあった。警察は母親の美幸被告(31)(公判中)が冬の寒い時期に翔ちゃんを戸外に放置したり、七味唐辛子を口に入れたりしたとして、暴行や傷害致死などの疑いで逮捕した。

 近所の女性(70)は、裸のまま外に出されて泣く翔ちゃんの姿を何度も目撃していた。「部屋から『何回言ったら分かるんだ』という甲高い大声と、『痛いよー』という子どもの泣き声もたびたび聞こえた」と話す。

相談所の対応 後手に

子育ての悩みを聞いて育児指導をする相談室。子どもを遊ばせておくスペースもある(倉敷児童相談所で)=竹上史朗撮影

 実は、虐待は倉敷児童相談所も把握していた。2004年2月には、病院からの通告をきっかけに、翔ちゃんと4歳上の長男を一時保護していた。長男は児童養護施設に入所させたが、翔ちゃんは「傷の程度が兄ほどではない」ことなどから家庭に戻した。

 児童相談所は母親への指導や支援を続けてきたと説明するが、悲劇は防げなかった。

 翔ちゃんが亡くなる8日前にも命を救うチャンスはあった。美幸被告が翔ちゃんの首を絞めたと話していたという通告が、幼稚園から寄せられていた。児童相談所は翌日に家庭を訪れたが、母子が不在だった。その翌日に母親と面談したが、翔ちゃんの様子は直接見て確認しないまま、美幸被告の言葉などから「直ちに一時保護しなければならない状況ではない」と判断したという。その後、二度と翔ちゃんに会う機会はなかった。

 「親との関係がこじれると子どもの家庭復帰が難しくなるので、対応が消極的になってしまった」。児童相談所を所管する岡山県子育て支援課長の吉松裕子さんはいま、対応の難しさを振り返る。

 千葉県松戸市では今年、わかっただけでも3人の乳幼児が死亡した。今年1月に亡くなった大竹美咲ちゃん(当時2歳)は、母親の内縁の夫、吉野陽士被告(25)(公判中)から暴行を受けていた。

 検察側冒頭陳述によると、被告は昨年暮れごろから、美咲ちゃんがお茶をこぼした、部屋の片づけをしないなどと言って頭や胸部を殴った。今年1月、腹部を拳で殴打するなどの暴行によって小腸に穴が開き、腹膜炎を起こした。

 このケースも、児童相談所が昨年12月に美咲ちゃんを一時保護した後、家庭に戻してから事件が起きた。美咲ちゃんは児童相談所が最後に家庭訪問した5日後に死亡した。

 いずれの事件も、県が有識者らに委託して検証作業を行うことにした。倉敷市の事件では、職員が実際に目で見て安全確認することを怠ったり、保護を十分検討しなかったりした点など、児童相談所の対応の不備が指摘された。

 厚生労働省によると、2005年の死亡例(56人)を検証した結果、児童相談所が生前に関与していた例が約2割を占めていた。

 松戸市の事件は検証作業を続けているが、千葉県虐待防止対策室長の鈴木冨美子さんは「いろいろな事例を積み重ね、担当の児童福祉司一人ではなく、組織として対処する力、状況を見極める力を高めていくほかない」と話す。

 暴力を振るう、食事を与えないなどの児童虐待がなくならない。虐待から子どもを守るために、虐待を受けた子どもが健やかに育っていくために、何ができるのかをこの連載を通じて考えたい。

児童虐待 暴力などの身体的虐待、食事を与えないなど養育の放棄・怠慢(ネグレクト)、性的虐待、暴言を繰り返すなどの心理的虐待がある。

 全国の児童相談所が対応した虐待相談は昨年度3万7323件に上り、10年前(4102件)の約9倍に増えた。市町村が対応した相談件数(児童相談所の件数と一部重複)は昨年度4万7933件だった。警察庁によると、今年上半期だけで18人の子どもが虐待によって死亡した。


http://www.yomiuri.co.jp/feature/orange/fe_or_07110601.htm